■また十日
●4月25日(土) 雨 夕方やむ
あれから、また十日ばかり過ぎた。
先週だったか、帰りがけ
多聞通りの交差点の角にある寿司屋のオヤジが
竹箒で舗道の落ち葉を掃いていた。
「これ、見てみい。なんぼ掃いてもこれやから・・」
「まぁ、いまがクスノキのシーズンやからなー」
そばに立っている作業着姿の、市の公園課の職員に話かけている。
舗道には、ところどころにクスノキの枯葉がうず高く積まれている。
●しばらく前まで、朱色や柿色の葉が混じり
まるで「春の紅葉」のような色どりのクスノキが
いまでは、すっかり若葉に入れ替わり、新緑のうす黄緑色、
一色の並木になっている。
少しずつ、春から初夏の姿に
変化していく。
●仕事は順調に進み、昼休みには
あいかわらず、武田百合子「富士日記」を読んでいる。
昭和四十三年七月あたりまで、来た。
日記は昭和三十九年七月から始まっているので、
もう四年がたつことになる。
富士山麓の別荘での日々が書かれたこの日記の中でも
時はめぐり、歳月は過ぎ去る。
その日の食事、買い物、お出かけ、ちょっとした出来事、
村人の話、東京と別荘との行き帰りなど、些細なことをメモした
この日記の面白さは、「日々は過ぎ去る」ということにあるように
思う。
●日記をつけても、つけなくても
日々は過ぎ去る。
つけた日は、過ぎたことを確認するように
つけない日は、未練を残して消えていくように
一日が終わる。
「富士日記」の、一日の日記の最後の一行にも
そのことが見える。
▼昭和四十三年七月十六日(火) 雨
・・・夜、ごはん、マトンの缶詰(中国製)、茄子しぎ焼き、ちくわの
おつゆ、キャベツ糠漬け。
隣の家も声がしない。私はハタ織り。主人は眠っては起き、ビールを
飲んで、読書。
▼昭和四十三年七月十七日(水) くもり、ときどき雨
・・・夜、ごはん、さんま蒲焼、キャベツ酢漬け。
管理所で、パン四十円、茄子、トマト、キャベツ、卵を買う。三百三十七円。
アザミの花がよく匂う。草刈り少し。・・・
▼昭和四十三年七月十八日(木) 快晴、涼しい風
長梅雨があがって快晴。ふとんを干す。どのアザミにも蜂が来ている。
雨が上がると一層匂う。・・・
夜、ごはん、塩鮭、トマト、漬物、牛乳ゼリー。
明日帰るので、夜、花子へ電話をしに行く。富士山の八合目まで
きらきらと灯が続いている。夏休みとなった。
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