■用・不用 (3)
●私はいまでも「四畳半生活」に憧れている。
結婚したとき、四畳半一間のアパートだった。
「ここで、一生暮らせる」と私は宣言した。
本気で、一生、四畳半一間暮らしを考えていた。
新妻は、何にも言わなかった。
内心、「うっそー」と思ったそうだ。
これは、あとからわかったことだ。
物はいらない。
体ひとつ。 自分の頭で考える。
本もいらない。
全部、捨てた。
●それから、しばらくして長男が生まれた。
それでも、四畳半一間だった。寝るときは赤ん坊が
布団で窒息するといけないので、台の上に小さなカゴをのせ、
その中に寝かした。
宮崎から母が来たとき、淡路から祖母が来たとき、
私は押入れで寝た。
最小限の生活。家の物は座っていても、みんな手が届く。
とても便利だった。
質素で美しかった。りんご箱に紙を張って収納箱にした。
少し「本」を買った。
●二番目が生まれそうになった。
もう赤ん坊の寝るところがなかった。二間のところに移った。
赤ん坊のオシメもたくさん要った。おもちゃも買った。
何にも買わないつもりでも、少しずつ「必需品」は増えた。
我が家にはTVはなかった。TVは要らなかった。
しかし、子供がよそのうちでTVを見て、帰ってこなくなった。
TVを買った。
●「住宅公団・空家募集」に24回(年4回募集で、6年ずっとはずれた)
はずれたので、公団から無抽選の空家斡旋が来た。
3Kの公団アパートに移った。
家は買うつもりはなかった。
しかし、物価がどんどんあがり、家賃を毎月、一生払うより
安いマンションを買うほうが得だ、と妻が言った。
「借金はしない主義だ」と私は言ったたが、もうこのころは
妻も、新妻のように黙ってはいなかった。
●2000万円くらい借金をして、35年のローンを組んで、
いまの3LDKのマンションに来た。
間取りが広くなる度に、物は増えた。
余分なものは買わなかったが、買ったものは大切に使い、
引越しでも全部もっていった。
しかし「本」が増えた。
「本」は引越しのとき、また生活を変えたいときに売り払った。
それでも次第に増えた。
●我が家には、いまでも部屋を飾るような「小物」はあまりない。
でも、よその家にないようなものが増えた。
思い出がベタベタくっついた品々、記録、そんなものが増えた。
ときどき、そんな物も思い切って何回か捨てた。
しかし、いま周りを見渡すと、ごみの中でくらしている。
よその家では、もっとすっきりしていると思う。
私は「快適な生活」「シンプル・ライフ」に憧れているのではない。
「簡単な生活」、つまり「簡単な人生」に憧れているのだ。
そして、その結果がごみに埋もれて暮らしている。
●「四畳半一間」、これは夢である。
妻は言う。
「いいよ。いつだって。
四畳半で暮らしたかったら
どこかアパートかりたって。
でも、ワタシは一緒に行かないからね。
あんた一人で行ったらいいよ」
「四畳半暮らし」、これは私の目指す生活である。
いま居るところ、娘がかつて使っていた部屋を
本や道具のない、何にもないガランとした「四畳半」に
改めなければならない。
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