■耳を疑う
●3月29日(日) 晴れ 窓から高層マンションの上にぽっかりと白い雲が見える
風、つめたし
起きると、妻がコタツで横になっている。
「あれっ、もう起きたン。もっと寝ててもいいのに。
起きたら、ご飯つくらなアカンし・・」
首もまだ痛いし、もう一度寝床にもぐりこもうとしたら
「寝るン? ウソやがな。冗談よ」
と言って、妻は立ち上がり
「あんた知ってる? ほら、中公園の桜、咲いてるでしょ。
この角度から見るとわかるから・・。この間から、わたし
観察しとったの」
と、レースのカーテンをあけて居間のガラス越しに中公園の方を指差す。
きのうベランダに出た時は気づかなかったが、たしかに枝先に六つ、七つ
咲いている。
●日曜日は、新聞の「読書」欄を見るのだが、最近はあまり読まない。
とりあげる「本」に面白いのがない。いや、私の関心が以前より希薄に
なったのかも知れない。
TVをつけ、関口宏の
「サンデーモーニング」を見る。
妻は寝そべって「数独」を始める。
ニュース番組もいろいろあるが、各局の特徴みたいなものもある。
土曜日のケーブルテレビ、朝日ニュースター
「愛川欽也 パックイン・ジャーナル」は
地上波のニュースでは流さないような情報をとりあげる。
それで、いくつかの「週間ニュース番組」を見る。
関口宏の「サンデーモーニング」は、関口宏の人柄や出演者の選び方などで
「温厚」かつ「良識的」なイメージを与えているように思う。
まえは、このあと続けて田原総一朗の
「サンデープロジェクト」を見ていた。
しかし、島田紳助が司会をやめたころから見なくなった。
紳助ファンだったからではなく、田原総一朗のアクの強さと政治的意見に
どこか辟易としてきたからだ。
●TVを消し、首をいたわりながら、クッションを枕に横になる。
コタツでこうやって横になると、すぐ眠れる。
妻は、「じゃぁ、ご飯でも作るかネーッ!」と台所へ。
新しいシャンソンの歌を大きな声で歌っている。
「どうして先生って、わたしに売春婦の歌ばかり歌わせるのかねー。
まぁ、ほかにこんな歌、歌える人いないし、わたしが歌うと受けるし、
先生は面白がって歌わせてると思うけど・・」
発表会では来た客が、妻が今度はどんな歌を歌うのか、それを楽しみに
しているという。
夏には、12曲か14曲かを歌う「リサイタル」を開くことになったらしい。
●きのう、晩ご飯を食べてるとき、妻が言った。
「うちの店によく来るお客さんで、おばあさんなんだけどその人が
わたしを見て、竹久夢二の絵に描いてある女の人によう似てるって
言うンよ!
わたし、耳を疑ごうたワ。どこがやネンッ、と思うたわ。
ほんま、よう似とる、なぁ、って横に立ってた同僚の××ちゃんにも
同意を求めるの。××ちゃんなんか、どう返事したらいいもんか困って
横向いとったわ」
月とスッポンほどにも似ていない。夢二の絵に出てくる女の人のイメージとは
まるで対極にあるような妻である。ほんの少しでも彼女を知っていれば
どこをどう間違っても竹久夢二の絵は浮かんでこないだろう。
同意を求められた××ちゃんも、ほんとうに困惑しただろう。
二人して、大笑いした。
●「ああ、いそがしいー、ああ、いそがしいー。たいへんだー、たいへんだー」
「あんた、わかっておらんやろ。わたしが忙しいのを・・」
「ほれっ、ちゃんとたべるんやでー。食べんかったら、どうなるか
知っとるやろ。ペンペンではすまへんで。もう作ったらんわ」
コタツの上のテーブルに、ちくわとレンコンを煮付けて胡麻をふったものと、
一口大の南京のコロッケとグリーンアスパラの茹でたのと、アジの開きの
焼き物と、白菜の漬物を置いていく。
「青いものも食べなアカンでー」
「ああ、それから蒲団干してあるから忘れんといてネー」
●妻は、きょうもあわただしく出ていく。
私はコタツのテーブルの上へ、紙に「ふとん」と書いて置く。
妻は、竹久夢二の話では、
「まぁ、しいて言えば色の白いところが、似てなくもないかナー」
と、まんざらでもなさそうな一言も漏らしていた。
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