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2009年01月19日00:10

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寺山修司『レミング〜壁抜け男』

1/10(土)0:45〜3:00、NHK-BS2の「ミッドナイトステージ館〜昭和演劇大全集」で放映された、寺山修司作・演出の『レミング〜壁抜け男』を録画して観ました。
1983年5/14から横浜市教育文化ホールで公演された、演劇実験室・天井桟敷のライブ収録です。
この年、直前の5/4、寺山修司はこの公演を見ずに、47歳で亡くなっています。
つまり、寺山本人が直に演出した自作の最後の芝居となった訳です。

作 寺山修司
演出 寺山修司,J・A・シーザー(共同)
音楽 J・A・シーザー
美術 小竹信節
出演 新高けい子,蘭妖子,サバドール・タリ,若松武,根本豊,矢口桃 他

初演 1979『レミング〜世界の涯まで連れてって』
改作 1982『レミング〜壁抜け男』

ある日、みすぼらしいアパートの1室に住む2人の若い男、自室と隣室の間の壁が消失している事に気付きます。
隣にいる病人と彼を看病する妻らしき2人が丸見えです。
元壁のあった所を越えていくと、即、隣妻から大声で看病の手伝いを命令され、生活は巻き込まれてしまいます。

大家に壁の修理を申し出ると、壁がなくなれば、部屋がどこなのか判らないじゃないか、住所さえ最早ないも同然だと。
暗闇に小さな灯りが点滅し、フラフラと動き回る舞台には、遠近感さえもなくなってしまいます。

壁のなくなった部屋には、いろんな輩が、出たり入ったりして、勝手な事を言ったりしたりするようになり、2人は混乱します。

2人が寝ていると、大時代な衣装の女優を先頭に、映画撮影の一隊が入ってきます。
「行き過ぎよ、影」と女優影山影子。
そして、影山影子の芝居にダメを出す監督。
どうせそのカメラにはフィルムは入っていない、と女優はふてくされ、監督と揉め出すと、その外から「カット」という声がし、別の監督が現れます。
俳優達とスタッフが映画を作っている様子を映画に撮っているのだとのたまう。

2人もいつかエキストラに使い回されていて、セリフ回しに注意を受けたりします。
2人は「台本もないのに、どやってやりゃいいんだ」と文句を言います。
時々、床の扉が開き、片方の母親が顔を出します。この下で広い畑を耕し、農作物を育てていると言います。

シーンが変わると、女優は20年来記憶の病を患っている患者だという事が暴かれます。
実は、スタッフもエキストラも、彼女の病を治す為の「遊戯治療」をしているのだと。
また、檻に押し込められた女が出てきて言うには、これは「解放治療」といって、患者に医者や看護婦の役をさせて自立を養うのが狙いだと。私は檻に入っているが、なりたくてなった看護婦だから、なかなか辛い仕事だけれども仕方ない、そう言って、また檻に入ります。
2人と共に、観客も混乱し、誰が正常で誰が異常なのか、誰が誰で、現実は何なのか、判らなくなります。
それとも、これは夢なのか。ついさっき迄自分の夢だと思っていたのが、実は他人の夢で、自分はその中のエキストラに過ぎないのか。

壁がなくなると、人間は拠り所を失い、かくも心細くなるものか。
どんな壁も擦り抜けるレミング(ねずみ)と、壁を失った人間とは同じなのか。
壁を突き抜けて進むレミングの先にあるのは、集団自殺。
壁を失った人間のゆくてには何が待ち受けるのか。狂気か死か。

映画撮影が終わり、1人はトランクを持ちアパートを出ていこうとします。
もう1人を促すと、彼ははここに残ると言い出します。何処へ行ったって壁はあるんだ、と。
トランクを持った男は言います、おまえは自分の周りに壁を作っちゃったのか、と。
部屋の地下には、残る男の母親が夢の畑を耕しているのです。もしくは、疾うに死んだ母の墓標。

暗転し、2人が言い争い続ける周囲から、壁を作るらしき金槌の音が騒々しく鳴り響きます。
芝居が終っても、観客の席に明かりはつきません。
金槌の音が暗闇の中を鳴り続ける中を、観客は右往左往しながら帰って行きます。
明日からも、人は、壁をありがたく押し戴き、狭い箱に詰め込まれて通勤する毎日を繰り返すのでしょうか。
 
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