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2009年01月08日14:52

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ジュリー・テイモア『アクロス・ザ・ユニバース』

作年観る事ができなかった映画『アクロス・ザ・ユニバース』を、1/7、レンタルDVDで観ました。
ビートルズの楽曲のみを使ったミュージカル作品です。

私の音楽ライフはビートルズでスタートしました。
ビートルズの曲は、間違いなく漏らさず聴いています、知らない曲は1曲たりとてありません。
ビートルズの後はクラシックへ私の興味は行ってしまいました。
ビートルズの楽曲は、声だけでなく、レコードに記録されているどんな音も聴き逃すまいと耳を立てて聴いたものです。
そんな聴き方が、後私をクラシックに誘導したのだと思います。
つまり、弦楽四重奏を聴くようにビートルズを聴いていたのだと思うのです。
また、彼等の作る曲、またはアルバムの変化していく様の面白さは、例えようもありませんでした。
当時は実にたくさんのバンドが世に排出されましたが、音楽的に彼等程変化していったバンドはありません。
常に新しい世界を創作し、素晴らしい完成度に持っていきました。
ハーモニー展開の自由な美しさだけでなく、ポリフォニックな要素も多々あり、前衛的なトライアルもあり、言ってみるなら、ルネッサンスの吟遊詩人から、バロックのコンチェルト・グロッソ、古典の静謐なソナタを踏まえ、ロマンの人としての叫びを経、近現代の無機質や暴力的な世界に迄到るが如き、めくるめく音楽的興味は尽きる事がありませんでした。
それにはプロデューサーのジョージ・マーティンの力も大きかったと思います。
新しいアルバムを聴く度に、その変化に驚き、幻惑され、魅了されたものです。

さて、こうしゃべり出すと、前置きがいつ迄たっても終わりません。映画の話に移りましょう。

ジュリー・テイモアは映画『フリーダ』を作った監督、オペラやミュージカルの演出もしている、年代的には私と全くの同世代です。
ビートルズと彼女がどういう付き合いだったのかは知りませんが、この映画はビートルズへのオマージュに満ちています。
まず使いたいビートルズの楽曲を定め、それに合う物語を作り出した、そういう順序です。単に知識として、企画としてのビートルズとの関係であるならば、こうはいかないと思います。
で、使おうと選択した曲が33曲。愛する曲を絞り切れなかった悩みはあります。その悩みはよく判りますが、結果としては、ストーリーがボワッと膨らみ過ぎてしまっているところがあって、本来は、ストーリーを有機的に連関し合った緊密なものに仕立てるところ迄、じっくり冷静に絞り込む事が必要だったと思います。部分的には、プロモーション・ビデオを繋ぎ合わせたという雰囲気の放漫さがあります。少し残念でした。

観て感じたのですが、これは不思議な事ですけれども、秀でた楽曲程、素晴らしい映像になっているという事がありました。
過去のビートルズの音楽とテイモアの映画とは時間的に遥かに分断されているのに、これは何故だろう、と思いました。
これは、詩も含めて楽曲が卓越している程、映像作家のイマジネーションを膨らめる事に繋がるのか、と、勝手に納得した次第です。

素晴らしい映像と作り込みは多々あるのですが、ここでは2つのシーンを紹介します。

1つは、徴兵検査の場。
『I want you (she’s so heavy)』が、そう使われるか、と、ニンマリ。
徴兵令状が、主人公ジュードの恋人の兄マックスの所に舞い込みます。
自由奔放な生き方を謳歌したい彼は、友人達と、どうしたら兵役に合格しないで済むかと議論します。
そして、指定の検査会場に赴くと、建物の壁に巨大なポスター。そこに描かれたシルクハットの男が動き出し、彼を指差して” I want you”と。
大勢の検査官はどれも全く同じ顔をしていて、ベルトコンベアーに乗せられた彼の衣服を次々と剥ぎ、モルモットのようにどんどん検査項目を遂行していきます。
マックスの叫ぶ個性等、ここでは全く無視されます。
彼の脳裏に浮かぶのは、南方の戦場、徴兵検査にやってきた若者達が何人かで、自由の女神像を担ぎ運んでいきます。
ここで流れるのが、同曲の”she’s so heavy”のフレーズ。”she”は勿論自由の女神。
素晴らしい楽曲と映像のフィットです。

2つ目は、『Strawberry Fields forever』のシーン。
‘60年代のアメリカ、ベトナム戦争は深みにはまり、市民の反対デモも次第に大きくなる。マーティン・ルーサー・キングjrの暗殺は’68年。
ジュードの恋人ルーシーも、反戦運動にのめり込んでいく。芸術を志向し、内面性を重視するジュードは、社会運動には親近感を得られず、結果、ルーシーとは心と場所が離れていくように思えてならない。
TVから流れるベトナム戦のニュースでは、今日も多くの犠牲者の数の発表。ルーシーの兄マックスは、今その前線にいる。
ジュードは自室の白い壁にイチゴを次々とピンでとめていく。イチゴからは赤い血が滴る。
その壁の向こうにベトナムのイメージが点滅する。ナパーム弾が炸裂し、爆風がおぞましい煙の輪を描く。
泥沼を歩むマックス達の疲れた表情。自動小銃の連続音。倒れる男。
イチゴを壁に投げつけるジュード。
“living is easy with eyes closed・・・”
美しくも、切ない。

純色のフルカラーでサイケデリックな映像は、’60年代の共通ヴィジュアルイメージです。
この潰れたイチゴのデザインが、後の場面で、屋上演奏をするバンドのビルの入口に掛けられています。
ビートルズの最後のライヴ演奏は、彼等の設立したアップル社の屋上で、'69年ゲリラ的になされました。映画『レット・イット・ビー』にその実写が収められています。
アップルのもじりがこのイチゴである事は、言を俟たないところです。

監督・脚本 ジュリー・ティモア
脚本 ディック・クレメント(共同)
撮影 ブリュノ・デルポネル
美術 マーク・フリードバーグ
出演 ジム・スタージェス,エバン・レイチェルウッド,ジョー・アンダーソン 他
2007年米映画
 
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