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2008年12月13日15:45

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リヒャルト・シュトラウス歌劇『アラベラ』

図書館のビデオを借りて、リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)作曲のオペラ『アラベラ』を鑑賞。

原作・台本 フーゴー・ホフマンスタール
監督 オットー・シェンク
指揮 ゲオルグ・ショルティ
演奏 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
出演
アラベラ グンドゥラ・ヤノヴィッツ(s)
ズデンカ ソーナ・ガザリアン(s)
マンドリーカ ベルント・ヴァイクル(br)
マッテオ ルネ・コロ(t)
フィアカーミリ エディタ・グルべローヴァ(s)

1977年、映画向けに仕立てたもの。

このオペラは68歳になったR・シュトラウスが、46歳で成功させた『ばらの騎士』をイメージして作った”3幕の抒情的コメディ”(本人の表現)。
なるほど、女声が男を演じるズボン役(ズデンカ)がまた登場する。

時代と場所は、19世紀後半に入ったウィーン。
オーストリア・ハプスブルク帝国は既に末期にさしかかる頃、貴族の時代もたそがれている。

アラベラの父親も伯爵ではあるが、請求書がうず高く机の上に溜まり、かといって生産的な対応策がとれる訳でもなく、アラベラの玉の輿だけを頼りにして、カード博打に遊び呆けている。次女はズデンカ。娘を2人貴族の社会で育て上げるというのは金のかかる事らしく、ズデンカは幼い時から男の子として育てられてきた。したがって人前ではズデンコで通しているが、その成長は心身共にもう女性を隠し切れないところ迄きている。
アラベラにはマッテオ大尉他4人の男が言い寄るが、何れも大した資産持ちではない。彼女の気持ちも、決め切れぬまま、しかし、家は火の車、両親からは急かれている。
因習や家の事情に従うつもりではいるが、本当の愛へ夢見がちな主張もする乙女心。言い寄る男共からすれば、手玉に取られているような気持にもなる。
アラベラは、つまり、旧い時代と新しい時代の間を往きつ戻りつする女性像とも言える。
で、アラベラに熱を上げるマッテオを、実はズデンカが慕っている。しかし、ズデンカは、マッテオにとっては、愛する人の弟(!)でしかない。

こうした、2人の姉妹の複雑な立場と心境をベースに、コメディタッチで、でも時には抒情的にしっとりと、取り巻く人間関係と事件を描いていく。そんなオペラだ。

ホフマンスタールの台本は、こんな微妙な関係を、会話に重きを置いて表現している。
シュトラウスも、その会話を大事にして、大言壮語や誇大妄想でなく、室内楽的な音楽でくるんだ。
そういう意味で、この作品により、晩年のシュトラウスは、新しいオペラの境地に到達したとも言える。

また、ウィーンの19世紀風俗を愉しめるのも、このオペラのもうひとつの特徴。

アラベラの前に新たに現れる男マンドリーカはワラキアの豪族。ワラキアはルーマニアの南部に位置し、神聖ローマ帝国の権勢下にあった。この田舎からウィーンに嫁取りに来るのも、充分あり得る事だ。この男、熊と闘って怪我をし、その療養の間に、アラベラの父からもらった彼女の写真で熱を上げてしまったという経緯になっている。
この人物を登場させる事で、都会の没落貴族の凋落振りと田舎の一直な男の行動力とを象徴的に対比させている。

2幕にはウィーンの謝肉祭の場がある。当時、フィアカー舞踏会というものが流行した。フィアカーは馬車の事で、その持ち主と家族、貴族階層が中心となって催された舞踏会で、ここで登場するフィアカーミリは、この会の中心人物。実際のモデルもいて、エミリー・トレチェック(1846-89)という女性。御者風のパーティドレスを創案したり、露骨な詩を付けて派手なウィーン歌謡を歌ったり、舞踏会の華であったようだ。一昔前の高級娼婦といったところか?(但し未確認)
これを、あのグルべローヴァが演じて、見事なコロラトゥーラを披露している。劇中人物としては、その場だけの登場で、物語構成に有機的な意味を果たす役割ではないのがもったいないような気持ちにさせるキャスティングではある。


それにしても、後半、特に3幕はやきもきさせられ、いらいらするオペラだ。
本心を言えない登場人物達が、いろんな立場や、出来事で振り回され、錯綜し、あわや決闘の危機が訪れる。
そのいらいらを、シュトラウスは、まるで愉しむかのように長く長く引っ張り続け、最後の最後はズデンカの告白で事なきを得る。
アラベラはマンドリーカの直情と疑心を許し、夢見がちな乙女は大人の成熟した女性に変化を遂げ、田舎出の男は悔み反省し一皮剥ける。
皆が立ち去り、夜のホテルのロビーに残されるのは2人のみ。
ラストは大袈裟な大団円とクレッシェンドは避け、「おやすみ」の優しい一言だけで彼女は階段を駆け上ってエンド。
アラベラの舞踏会場での”明日はあなたのもの”という言葉を、マンドリーカはひとり噛み締める。
シュトラウスにしてやられたな、との感慨が、幕後の幸せな気分に浸らせてくれる。
 
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