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2008年12月03日18:47

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ロイ・アンダーソン『愛おしき隣人』

レンタルDVDで、スウェーデンの映画監督ロイ・アンダーソンの『愛おしき隣人』を観る。
これを「観たい」作品に掲げて、一体どの位経ったろうか。


最初にテロップが流れる。ゲーテの言葉。ただ何からの引用か、私は知らない。
「命ある者よ、
逃げようとするお前の足を
忘却の川が濡らすまで
暖かな寝床を楽しむがよい」

この冒頭の一節「命ある者よ」が、この映画の原題。
「生きている君よ」、「生あるあまえ」でもいいかもしれない。
スウェーデン語は判らないので、英訳されたものを引っ張ってくると”You, the living”という事なのだそうだ。

さて、このゲーテの言葉から、早速、しりとり遊びが始まる。

画面はアパートの一室、ソファに寝ている中年の男がいる。「暖かな寝床」からのしりとりだ。
電車の音で目覚めて言う、「悪い夢を見た、爆撃機が襲来する夢だ」。
この夢が、映画のラストに出てくるから憶えておこう。

しばらくしてタイトルの文字が現れ、夜のアパートの1室。スーザホンを練習する男。
ネグリジェ姿の太った妻が部屋の入口に現れ、頭を掻き毟ってヒステリックな悲鳴を上げる。

アパートの下の階の男。天井を棒で突っつく。楽器の練習を止めろというのだろう。
音は止まず、天井の照明器具と埃が落ちてくる。

隣のアパートのベランダに立つ男の後ろ姿。その視線の向こう、上下2つの窓から見えるのは、スーザホンの1部と天井を突く男。
ベッドルームからの妻の声がする、「早く寝なさい、また明日がある」。

とあるバー。多くの男女がたむろする。
とりとめのない会話があちこちからする。
店主か、カウンターの上の鐘を叩いて、「さあみんな、ラストオーダーだよ、また明日があるから」。

次の日、窓から柔らかな陽の射すアパートの1室、大太鼓の練習を始める男。
後から判るが、スーザホンの男とは、同じ軍楽隊の仲間。
部屋の入口は開いているが、姿の見えぬ人影と伴に、パタンとドアは強く閉められる。

小学校の教室、小さな生徒たちが机でおしゃべり。入口は開け放たれており、女性教師が入ってくる。
彼女は、皆の前で突然泣き出し、部屋を出ていく。
心配そうについてくる生徒達、「どうしたの」。
教師「夫が、私の事、クソはばあって」。

絨毯を売る店先。男が客の対応をしている。
自分が奨めたラグを広げると、サイズ不足。
客に愚痴を垂れる店員、「今日はツイてない、女房とケンカした。クソばばあって叫んだら、高慢ちきって言い返された」。
泣く男を尻目に、呆れて帰っていく客。

渋滞する町中の道、自動車を運転する男がいる。僅かに進んでは止まる。
カメラ目線で、こちらに向かって言う、「昨夜、悪い夢を見た」・・・・・・と。

ちょっと引っぱり出すだけでも、こんな調子。
際限もなく、あっちへこっちへ繰り返されるしりとり遊び。

今年2月に観た『ここに幸あり』を想い出す。
あれにもしりとり風の遊びがあったが、それよりもっとサイクルは短かく次から次へ、そして人を突き放した感じがある。


こうして、隣人達は、擦れ違って行く。
“隣人”とは広い意味で言っている。
夫婦であったり、親子であったり、楽隊仲間であったり、医者と病人であったり、ロックスターとファンであったり、老人と犬であったりする。
どれひとつとして的確な会話は発生せず、擦れ違いの様は傍からみれば滑稽で哀れ、しかし当人からすれば悩み深く、孤独である。

実はスーザホンの前に1エピソードあって、公園のベンチ、中年の太った夫婦が座る。
夫は腹の出た、元ヤンキー風。
妻は大声で喚く、「誰も私を理解してくれない、私は誰にも好かれない」。
夫は、毎度の鬱症状かと少し呆れながらも優しく「俺はお前が好きだ、判ってるだろ」と。
会話は平行線のまま交わらず、妻は「消えて」と。
夫が行こうとすると、「やっぱり(私も)帰るかも」と。

この夫婦は、バーの客でもあったり、その他、あちこちに現れ、相変わらず喚き散らし、心は擦れ違いのまま。
夫婦に限らず、出てくる”隣人”達は全て、理解し合う事なく、ただ擦れ違うばかり。
ファンとロックスターは夢叶い結婚するが、ふと気付くと、新居のアパートの窓の外の景色はどんどん後ろに遠ざかっていく。
新居そのものがレールの上に乗っかった客車のようで、勿論、これはファンの少女の頭の中の妄想。

映画の終わり、いろんな人達がそれぞれの生活の場で、ん・・、と何かに気付いたように、空を見上げだす。
彼方に何か見えるのだろうか、何か音でも聞こえるのだろうか。
しばらくするとカメラは切り替わり、雲が切れて後ろに飛んでいくらしい。
見ていると、雲を切っているのは飛行機の翼だと判る。
少しずつカメラのフレームの中に飛行機、いや爆撃機の姿が入ってくる。
その数はだんだん増えて、何機とも判らない。大編隊の爆撃機である。
雲がきれいに開けると、編隊の下には、都会の家並みと間をくねる川が見える。
何か良くない事が起こるような、そんな気配も感じさせながら、しかし、音楽は例の軍楽団の陽気なジャズ。
そのまま画面は暗転しエンド・クレジットが上がってくる。

冒頭の男の夢がここに帰って来て、映画は、ひたすら繰り返す循環の輪の中へ・・・

人と人は、こんな繰り返しであっても、一緒にいたいのか???


監督・脚本 ロイ・アンターソン
撮影 グスタフ・ダニエルソン
音楽 ペニー・アンダーソン
出演 ジェシカ・ルンドベリ,エリック・ベックマン,エリザベート・へランダー 他
受賞 2007年スウェーデン・アカデミー賞 グランプリ,監督,脚本3賞

スウェーデン,デンマーク,ノルウェイ,独,仏合作
 
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