中之島美術館で「アール・デコ100年展」を見てきました。
「アール・デコ100年」というのは、1925年にパリで「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」が開かれたのですが、そのタイトルの「装飾美術」arts decoratifsの部分を略して「アール・デコ」と呼ぶようになり、この時代を表す美術様式を表す言葉にもなった訳で、それから100年ということです。
(当時パリにいた朝香宮夫妻がこの展覧会を見てアール・デコ様式に心奪われ、帰国後アール・デコ様式の朝香宮邸を作りました。現在の東京都庭園美術館です。この美術館はアール・デコ様式の殿堂ともいうべき建物です。)
展覧会はまずこのアール・デコ博の公式ポスターから始まります。フランス語版と英語版があります。フランス語版の、文字の長さを変えて左右をそろえた長い展覧会のタイトルのロゴがモダンさを感じます。ポスターと同じ図柄の公式カタログも展示されています。中が見てみたい…。表紙はポスターと同じなので、どこかのページを開いて見せてくれたら…。
他にもアール・デコ展のポスターがあります。こちらは工場から黒い煙がはき出されている絵です。これは見たことがあります。当時はこの黒い煙は産業振興の象徴だったんだな…と思ったことがあります。
また、彫刻家のブールデルが絵を描いたポスターもあります。
ルネ・ラリックのガラスも展示されています。細長い姿のすりガラスっぽい「泉の精ガラテ」は、当時会場に飾られていたもの。当時会場にあった大きな背の高い噴水塔の写真があり、そこに付いていたということです。朝香宮邸の入り口のルネ・ラリックのガラス彫刻に似ていて、朝香宮夫妻はこれを見てあのガラス扉を発注したのかなと思いました。
それから、パリの高級宝飾店ブシュロンから、当時の宝飾類も随時展示されていました。
アール・デコの時代はエキゾチシズムの時代でもありました。東洋的な翡翠の彫刻が施された指輪やブローチ、日本の風景を写したような絵柄の漆のコンパクトケース、マハラジャのバックルベルトなど。
そして、この展覧会は中之島美術館に寄託されたサントリーポスターコレクションを中心にしていますので、当時のグラフィックデザインを知ることができるポスターが次々と現れます。ポスターなので基本は広告です。ロゴと絵がモダンにデザインされたポスターの数々にウットリ。モダンでおしゃれで見ているだけでウキウキします。
現在の広告ポスターは写真が主ですが、カラー写真の精度が悪かった時代、広告は一から絵柄を起こして作成する必要がありました。その分大胆なデフォルメや省略などデザイン的に見せる部分が大きかったのだと思います。今はもうこんな広告は出ないですね。
カッサンドルは豪華客船の正面を描いたポスターが有名ですが、それ以外のものも展示されていて面白かったです。「北方急行」の列車の絵など、しびれるほどモダンです。
フランス以外にドイツやオーストリアやイギリスのポスターなどもありました。英語とフランス語はなんとかなりますが、ドイツ語が全然わからない…。
そもそも1920年代とは、第一次大戦が終わって世界が全く変わった時代でした。
大戦中に兵隊に行った男たちの代わりに女たちが仕事を始めるようになったこと、戦後も復興の需要や夫を亡くした女たちなどが労働力として外に働きに行くようになったことで、女性のスカートは短かくなり、断髪をして、コルセットから解放されてゆるやかなシルエットのワンピースやスーツがファッションの中心になりました。
また、自動車、鉄道、飛行機、船舶など移動手段が発達し、都市では地下鉄が開通し、移動手段や距離にも変化が起きました。電話やラジオも使われるようになり、遠く離れた場所との通信もできるようになりました。
そういったことから「スピード時代」と呼ばれ、そのスピードを強調したポスターが現れました。自動車のスピード感あふれる広告や、自動車とモダンガールを組み合わせた広告などが生まれました。
カッサンドルの豪華客船ノルマンディー号のポスターもちゃんとあります。しかもノルマンディー号の船室案内図付き。ファーストクラス用ブックレットだそうです。
その自動車にも変化が現れます。
今回はBMWの自動車が2台展示されていました。1台は1928年、もう一台は1935年。1928年のものは馬車の名残りで四角いボックスのような車体です。1935年のものは流線型で赤とベージュのツートンカラーのオープンカーで、これまたとてもモダンでカッコイイです。
また、初期の自動車にはボンネットの先にカーマスコットの女性像が付いていました。今回、ルネ・ラリックのガラス製のカーマスコットが展示されています。女性の頭部で、髪がまっすぐ後ろになびいて、スピード感を表しています。私は船の舳先に女性像をつけてお守りとしていたという伝統を思い浮かべました。
女性たちは外に出るのに化粧をするようになりました。この展覧会のチラシなどに使われている正面の女性の絵がありますが、これは「2枚の切り札」というポスターのものです。女性の両側に大きなトランプのようなカードがあり、片側はリップスティック、片側はパウダーコンパクトの絵が描かれています。どちらも携帯できる大きさで、こういった大衆向けの化粧品が普及しました。
モダンなドレスに身を包んだ女性がアイスクリームを食べているポスターもあります。
香水も上流階級のものだったのが一般的に普及しました。ガラス製のおしゃれな香水瓶がいくつか展示されています。ルネ・ラリックのものもあります。やはり持ち歩けるような小ぶりの瓶もあります。小さくても細工が美しくておしゃれです。
女性向けの腕時計も出現しました。一見ブレスレット、よく見ると中央に文字盤。…でも小さすぎて時間が見にくくないですかー。やはり実用よりおしゃれを優先?
当時のドレスの実物も展示されていました。
特に人気だったポール・ポワレの本物!ウエストがゆるくて肩や腕の露出が多く、背中も大きく開いています。いかにも1920年代…ウットリ。
その他いくつか女性デザイナーのドレスも。いずれもいかにも1920年代らしさにあふれていてとっても素敵。全て神戸ファッション美術館の所蔵品です。
この時代はレジャーが普及した時代でもありました。スキー、水泳、ゴルフ、テニスなどを楽しむ女性たちがポスターに登場しました。「バスに乗ってピクニックに行こう」などと誘うポスターもあります。
「VOGUE(ヴォーグ)」や「ヴァニティ・フェア」と言ったファッション雑誌も展示さています。この時代の最先端の流行を見せていました。
最後に登場するのは当時のスター女優。まずはミスタンゲット。ムーラン・ルージュの人気女優でした。私はミスタンゲットのレコードを復刻したCDを持っています。今の有名なシャンソン以前にパリで流行していた歌です。そうか、モーリス・シュヴァリエは年下だったか…。特にシャルル・ジェスマールが手掛けたポスターは頭部だけの大胆な表現で人目を引きます。
…って、これは!!!
宝塚少女歌劇団の「パリゼット」(1930年)のポスターと同じではないですか!!!私には見慣れたあの絵…。
あれはパクリだったのかー。
ミスタンゲットのこのポスターは1928年。「パリゼット」の作・演出をした白井鐵造はそのころパリにいて、このポスターとミスタンゲットの舞台を見た可能性は高いです。「パリゼット」は白井鐵造の帰朝みやげ作品で、まさしくパリ・レビューを宝塚に再現しようとしたものですが、ポスターまでパクッてしまったのですね。当時は問題にならなかったんでしょうね…というか、当時のパリでは「日本でポスターがパクられている」というような情報は入ってこなかったんでしょう。
あとはやはり当時の人気女優ブランシュ・モンテルの、その名の通り白いドレスをモチーフにした素描のような絵。
エメリッヒ・カールマンのオペレッタ「サーカスの女王」のポスターもありました。調べてみると初演は1926年、ウィーン。展示されているのは1936年のパリ版。
最後におまけがありました。
アール・デコ博には多くの国が参加しましたが、アメリカは参加を要請されるも断りました。アメリカには参加するような美術工芸がないとかで。
ということで、ちょこっとだけ当時のアメリカを紹介するコーナーが。摩天楼をバックにした「VOGUE」、ブシュロンのモダンなジュエリー、そして摩天楼の写真。当時からニューヨークの夜景はきれいだったのですね。
さらに、さらにおまけ。
大阪のアール・デコ時代の建築を写真で紹介。まとめ地図付きで、展覧会の帰りにも行けます。
展覧会を見終わって、グッズ売り場を見るのも楽しいものです。しかし今回はたっかい図録だけにしました。
で、ざっと中を見てみたら。
解説がないーーーーー!!!
展示物のデータだけで、解説が全くない!
各パートごとの全体的な説明はありますが、個々の展示品について何も解説がありません。
なので、時々ついていたキャプションを思い出しながら書きました。あと、イヤホンガイドも借りたので。だいもん(望海風斗)がナレーターをしているー。
せめてキャプションに書かれていたことぐらい書き添えてほしい。手抜きすぎるー!
とりあえず、これだけアール・デコ期のとびっきりモダンなポスターをまとめて見られる本はなかなかないので、見てるだけでも価値はありますが…。
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