私は上海出身の中国人の先生に月2回カフェレッスンで中国語を習っています。
それが、先日何がきっかけだったのか…香港の国家安全法の話になって、先生がアメリカが同盟国を誘って中国を攻撃していると言い始めまして。私はこの法律は香港の自由を奪い、一国二制度が崩れてしまう大変な法律だと言ったら先生の反応がすごかった。悪いことをした人を引き渡すのがどうして悪いのか、と。香港では暴れて物を壊したり火をつけたりして民衆を扇動している人がいるニュースを見た、あの人たちの後ろで操って騒ぎを起こしている人がいる…などなど。私がそうではなくて、何も壊さずにデモをしている人も取り締まりの対象になっている、香港ではデモができなくなったと言えば、なぜデモなんかするのか、なぜ中国に反抗するのかと。
中国では自由にものが言えない、政府を批判するとマークされたり捕まったりするから、それが香港でも起きたら香港の人が抵抗するのは当たり前だというと、先生は「そんなことはない」ときっぱり否定します。自分が中国に帰って家族や知り合いに会っても自由に話ができるし何も困ることはない。最近の中国は経済が大きく発展していて豊かになっているし、なぜ政府の批判をする必要がある?批判するのは中国に悪意のある悪い人たちだ。
そうして、私に中国のことを悪くいう人たちに騙されているんだとまで言いました。
でも実際に逮捕されたり国外に逃げたりしている人もいる、というと、それは悪い人たちで中国がいやなら出ていけばいい、国外へ逃げたならそれでいいじゃないと言う。
日本の記者が北京で取材しようとすると監視されたという記事を読んだことがあるというと、それは中国のことを悪く書くからだろう、全部の記者が監視されるわけじゃなくてその人が悪かったんだろう。
私は中央アジア史が好きなので、ウイグルの動向もきになっているのですが、ウイグル人が弾圧されている話をしたら、一部の悪い人が捕まっているだけ。ウイグル人を指導者にしたりもしているし弾圧などしていない。(指導者は批判そらしのカモフラージュなんだけど)。
さらに、香港がこうなって「一国二制度」が骨抜きになってしまったら、台湾もますます中国と一緒になりたくなくなるだろうと言ったら。
何を言ってるの、台湾は中国。今のあの独立派の女の人、本当にいやらしい顔をしている、と顔をゆがめてみせる。独立なんておかしい。台湾も中国も同じ漢民族なのに。と、独立派を国家分裂の陰謀者のように言う。
中国はとても大きな国で人口も多いからまとめるのはとても大変。みんなが100%満足する政策はない。誰もが好き勝手にしたいことをしたら騒乱が起きてバラバラになる。一つの国としてまとまっていくには全員の言うことは聞いていられないのは仕方がない。
など、など…。私もなんとか反論しようとしてしまうので、ますますエスカレートしていくのです。
聞いているうちに「そうか…」と思い至りました。
先生は「思想・言論の自由」「基本的人権の尊重」という概念を持っていないのでは。
先生が学校へ行っている年ごろには中国は文化大革命でした。当時の中国に「思想・言論の自由」とか「基本的人権の尊重」とかいう意識があるはずがありません。
先生が文革時代のことを話すのを聞いたことがあります。当時は紅衛兵はもちろん、互いに疑心暗鬼になって告発しあい密告しあう怖い時代で、外で重いものが落ちる音がしたと思ったら人が飛び降り自殺をしていたとか。そんなことが当たり前に起きていたといいます。
それで、文革のことを思えば言論の自由は大切だと思わないかと聞いてみたら。
今はずっといい時代になった。中国では自分も周りの人たちも何でも好きな話をしているし、経済成長のおかげで豊かな国になっている、今の中国のどこが悪いのかと。
確かに、文革が収束した後は��小平が復権して改革開放を始めました。そうして中国は市場経済を取り入れてだんだん経済成長をしていきました。先進諸国は中国が豊かになるにつれて、民主化していくことも期待していました。しかし民主化と経済成長はリンクしなかったのです。中国人民は「思想・言論の自由」「基本的人権の尊重」の重要さを知る機会が与えられてきませんでした。
検閲が行われ監視が強化されても、悪いことをしなければ何も怖くない。いや、国を批判するのは騒乱をもたらし、国家の安全をおびやかすこと。中国が一つにまとまって強国として発展していくためには反体制活動は許されない。それは国が発展するために必要なことで、国が発展すると国民の生活も向上する。それで中国はよい国になっていく。
先生は長く日本に住んでいて日本語もペラペラなのに、中国サイドの報道をそのまま受け入れています。日本語のメディアにはどれだけ接しているのかわかりませんが、この口ぶりだと中国を悪く言うメディアは信用できないと思っているようです。
日本では新聞・雑誌も多数あり、それぞれ独自に取材していて、できるだけ事実を報道しようとしています。記者によって見方はそれぞれありますが、事実を捻じ曲げたり恣意的な記事を書くことは記者としてしてはいけないことだという意識は基本的にあるはずです。それに先進国メディアでは、メディアは政権批判も仕事のうち。政府広報は報道ではありません。しかし政府御用達記事が中心の中国メディアしか知らないせいか、そういった報道の姿勢もわからず、「わざと中国のことを悪く言っている」と受け止めてしまうのです。
ということは、外国に行ったことがない、行っても観光レベルぐらいの多数の中国人はやはりこのように考えているのでしょうか。とすると、中国の民主化は絶望的だという気分になってきました。国民が民主化を求める気持ちがないと、民主化は実現しません。
また、香港問題で欧米諸国や日本が中国に対して非難したりあるいは制裁にまで発展したとしても効果は出ないかもしれません。中国政府は人民に対して、諸外国が非難しているのは、中国の発展がめざましく、世界の大国になることを恐れて何かと理由をつけてそれを阻もうとしている、と言っているらしい。つまり非難は香港や諸外国に向けられ、政府には向かわないわけです。
こういった記事を見つけました。
「監視社会=暗黒」の図式で中国を語る日本、重要な視点が抜け落ちている
https://globe.asahi.com/article/13516339
なるほど、人民が満足しているならば批判精神も起こらないわけです。
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