「中央ユーラシア史研究入門」
山川出版社
本屋さんでウロついていたら目に留まりました。「入門」と書いていあるのでスルーしようと思ったんですが、書名がどうもスルーできないので手に取って見ました。そうしたら買ってしまいました。
それでよく見てみると、本当に「研究」のための「入門」だったのです。
中央ユーラシアの歴史をざっと概観する流れで、テーマごとに主要な文献や最新の研究が紹介されていくのです。本の3分の1ぐらいの分量が参考文献。なので本気で研究したい人のための索引の役割を果たすような本。最近専門的な本をほとんど読んでいなくて、近年の研究成果もよく知らないのでとても参考になりました。
特徴的なのは、モンゴル以降の分量が多く、特に近代の西トルキスタンの分量が多いことです。これはソ連が崩壊してイデオロギーから自由になって新しい研究成果がどんどん出てくるようになったから、という事情があるようです。ここのところ、マイミクさんの影響でモンゴルの後継国とロシアの関係に興味を持つようになったので、なかなかタイムリーです。といっても、あんまり研究書や専門書に踏み込もうという覚悟はないのですが。
そして、旧ソ連領中央アジア5か国がどうしてこの5か国になったかと言うと、ソビエト成立の際に民族自決の原則によって自治共和国または自治州が作られたから…ということです。この地域の民族を厳密に線引きして分けるのは実際は不可能なんですが、複雑に入り組んだ国境線はその苦悩を表しています。結局ソ連時代に区分けされた5か国が民族アイデンティティを規定する働きを持ち、ソ連が崩壊したらそのまま独立国になりました。
それに対して、現在の新疆ウイグル自治区に当たる地域、特に私が自称「専門」と言っているタリム盆地周辺のオアシス都市群は相変わらず研究が乏しいです。この本でもあまりにも分量が少ない。古代はまだしも、清朝に至って新疆省が置かれますが、ロシア〜ソ連時代の「西トルキスタン」に対して「東トルキスタン」とも言われるこの地域の歴史の歩みは本当に大ざっぱです。
モンゴル以降の西トルキスタンはハン国やアミール国など様々な政権が興亡を繰り返したとはいえ、一定のラインで歴史がたどれます。しかし東トルキスタンではそういった大きな政権が生まれず、清朝によって新疆省が置かれただけ。断片的にしか記述するべき歴史がたどれないようです。
ただ、20世紀になって「ウイグル」という民族名が選ばれた事情は書いてありました。20世紀初頭に汎テュルク主義の思想が生まれ、この地域の人たちにも「テュルク」だという認識が生まれました。しかしソ連で民族の境界線を定めることになったとき、タシュケントで新疆出身者の民族を規定するのに「ウイグル」という言葉が採用されました。しかし現地では賛否両論ありました。そもそもここでは一つの民族だという意識も薄かったのです。結局中華人民共和国が成立して少数民族の規定が行われたときに「ウイグル」を採用し、新疆ウイグル自治区ができました。
もとは外から定められた民族名ですが、しだいに自称として定着していきました。
また、さすがにトカラ語の文献も紹介されていました。日本語ではないのですが。文法書として紹介されているのはドイツ語っぽいし。やっぱりル・コックがクチャを発掘して「古代クチャ」の著作があるからでしょうかね。中国で最近トカラ語文書と亀茲に関する本が出たらしいので、それなら読めるから欲しいと思いました。
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