「私の巴里・アンティーク」
朝吹登水子著
文化出版局
この間船場ビルディングへ行ったときにそこに入っている古書・雑貨のお店で見つけた本です。あまりにもその場の雰囲気にピッタリな本で、とても看過できませんでした。
著者はフランスに留学し、フランス人と結婚してフランスに住むうちに骨董収集を始めたらしい。
フランス人にとって骨董は特別な収集品と言うより、日常生活を飾る、趣味のよいインテリアのようなもので、様式や色合いなどトータルイメージで部屋をしつらえるのに不可欠なものだそうです。
そうして集めた品々の特徴を記し、どんな人が使っていたのか想像し、古き時代に思いを馳せる様子を綴っています。そのため、骨董の解説のような本ではなく、骨董といってもそれらは人間が使ったものであること、それぞれの時代を生きた人々の軌跡を示すものだということが感じられます。
本の最後に書いてある回想がまたすごいです。
著者の両親は大正9年(1920年)に「世界漫遊」に出かけたそうです。そこでヨーロッパ風の生活を知り、母親はそれ以来パリのオートクチュールでお取り寄せしたドレスを着るようになったとか…。
そして著者にもイギリス人の家庭教師をつけてヨーロッパ風の教育を施し、ヨーロッパ風のマナーをしっかりと身に付けたそうな。アール・デコ期の手袋の解説をしながら、「レディは手袋をするものです」と教えられたことを思い出したり…。
そして子どものころには軽井沢の別荘へ避暑に行きました。そこで家族で周りのイギリス人やアメリカ人とともにテニスをしていたそうです。子どもが増えて、「もう一軒欲しい」と言って英国人宣教師の別荘を譲り受けたとか…。しかもその別荘はその後「ヴォーリスさんというアメリカ人の設計で建て直し」…!!
ヴォーリズ!!そういえば、軽井沢でもいくつか別荘を建てたというのは聞いたことがあります。
で、その建て直した別荘の家具は、お母様がアメリカから買ってきたもの。
なんかもう、別世界のような話です。このような人が骨董を暮らしに生かしながら、インテリアに取り入れながらさりげなくその来歴を語ることができるのですね。
この人の祖母の兄にあたる人が三井財閥の中上川彦次郎。福沢諭吉のおいで、ロンドンに留学経験あり。その後も一族は皆イギリスに留学していたといいます。お父様も伯父様もイギリスに留学し、家の中ではレディー・ファースト。
そして著者の三番目の兄がフランスに惹かれてフランスに留学してフランス文学者になり、著者自身は戦後パリに半年のつもりで勉強に行ったのがそのまま居着いてしまったといいます。
本物の「貴族社会」ってこういうものかと思うような話です。実業家一族ですので「貴族」というより「ブルジョワ」ですね。でも昔のお金持ちは教養がありましたね。
ログインしてコメントを確認・投稿する