そして彼は『せいこう』出来ず『せいこう』した。
久しぶりにとあるBARに行きましてね。
ハプニングは起きないというかしちゃいけないけれど普通のとは少しだけ違う。
そんなBARだったんですけど、まあ楽しかったんですよ。
楽しかったし、『チ』的好奇心も刺激受けたしね。
いや本来の意味での『知的好奇心』もあったから二重の意味でもやはり『チ』的かな?
詳しくは言えないというか書けないですけど一言で言うなら『人の可能性』というものに大きな希望を抱き、人の覚醒は未だ途上!って照れもなく叫べる。
そんな夜でございました。
とまあ、そんなこんなで始まったのがタイトル通りの大会ですよ。
ええ、オ○ホです。
僕は使ったことないんですけど、噂はかねがね聞いておりまして、『これだけあればいい!』とさえ宣言する男すらいるというアレですよ。
4個くらいが丸テーブルにおかれましてね、ルールは至極単純。
目隠しして指を入れてその感触でどれに入れたか当てる。 ただそれだけ。
最初は参加する気はなかったんですけどね。
だって僕、このお店初めてですから。
例えるなら童○みたいなもんですよ。
そんなチェリーの中のチェリーボーイがですね、『僕もイクイク〜!』なんて言えるわけがないじゃないですか。
チェリー過ぎて熟成されて渋みすら香るようなこの万年メンタル童貞が。
そんなビビり野郎ですから、久しぶりに酒飲んで頭ぶっ壊れつつも様子見てたらですね、沸々となんだか湧いてきたんですよね。
何が? 怒りですよ。
内心の萎縮を隠し、その実は尊大な自我を守るため外側で曖昧に笑ってしまっているそんな自分に対してですよ。
その少し前に人の可能性に感動していたお前はどこに行ったんだと。
夏目漱石も言ってたじゃないですか。
『精神的に向上心の無い者は馬鹿だ』と。
とあるラッパーも言ってたじゃないですか
『イケるなら絶対イッとけ〜』って。
つまらない毎日を少しでも変えて失った情熱を取り戻したくてお前はここに来たんじゃないかと。
そして何よりもメイド服着た綺麗な二人のお姉さんに後ろから目隠ししてもらって、もう一人の方に指先にオ○ホを突っ込んでもらえるなんて激シコシチュエーションなんてこの先絶対に無いって言い切れるんだもん!
そりゃ行きますよ。 『いって』ないけど、いやむしろ『いかせて』もらいたい!ならば自分からやはり『いって』おかないと!
自問自答を終え、熱(いき)りたちつつも
立ち上がった僕は強い決意とは反比例するように縮み上がりつつある『息子』すら構わずに丸テーブルに近づきます。
ふと目が合った店員さん。
一瞬の邂逅とそして刹那の一歩を踏み出した僕に彼が問いかけます。
『やりますか?』
ドクリと跳ね上がる心臓を皮膚の外側から抑えつつ『はい』と後戻りの出来ない肯定をしました。
実はオ○ホが用意された段階でどんなもんなのかなと触ってたんですけどその時は参加するつもりのないビビりビビりの童貞君でしたからそこまではしっかり確認してなかったんです。
しかも僕の前の数人は全員成功してるんですわ。 俺も間違えるわけにはいかねえと思って今度はしっかり確認してやるぞと思ってたんですけどねー。
『あっ、一度入れたならもう一回は駄目です』というレギュレーションの前に一気に狼狽ですわ。
でもね、そこで引いたらダメだと。
人生ってのは予定調和じゃないんだと。
ちょっといいなと思ってた女の子に『今日、私ずっと暇なんだよね』って言われることだってあるかもしれないじゃないですか?
まあアラフォーになるまで生きててそんなこと一度もなかったんですけどね。
もしくは今日お店に行く前に盛り上がった女の子と『この後お店出て二人で飲もうよ』なんて『せいこう』体験するかもなんてクソ甘い無謀を抱くことを夢みることも自由でしょ?
まずは一歩だけ、足を前に出す。
それが大事なんだと。
誰だって最初は童貞であり処女である。
それだけは完璧なまでに真理なのだから。
というわけで膝立ちして女の子に指で目隠しされましたよ。
ヒンヤリと冷たくもしなやかな感触をまぶたに感じながら全神経を中指と薬指に集中させます。
ツプリと音を立てて指先に柔らかくもプリプリとし、しかし決して狭くはない。
動きはややぎこちなくそれがまた僕を悩ませました。
でもゆっくりと。 確実に。 中指を動かします。
それは探るように、探索するように、そして何かを見つけるかのように真剣に。
やがて瞼は解放され、視界が開かれ、僕の目の前には四つのオ○ホが鎮座する。
まずは一番右にあるそれを除外する。
スーパーストロングなそれは『オイオイ、そんなに離れたくないのかい?』とアメリカンな感想がでるくらいキツキツで明らかに違う。
そしてその隣もまた可能性を切り捨てる。
前者よりも緩めでふんわりと包みこんでくれつつもその実、小慣れてないのか固さが程よく残っている。
可能性は二つだけ。 擬人化するならば二人だけに絞られました。
一つは包み込むつつも、それは優しくてまるで頬を撫でるように儚くも心地よさを与えてくれ、もう一つはむしろ余裕を持って守るかのような慈愛にも近い愛しみを感じさせてくれた。
少しだけ逡巡しながら僕は一番左を選ぶ。
疲れたアラフォーすらも受け止めて慈愛という愛で慰めてくれるようなそれを指差すと一種の沈黙の後に喝采が響きわたる。
ええ、当たりです。 成功したんです。
ホッとすると同時に僕の指をオ○ホに誘導してくれたお姉さんを見ました。
ああ、この人が。 あんなにもぎこちなく指先を弄んでくれたお姉さんはよかったねと言わんばかりに笑ってました。
みんな笑っていました。
その瞬間にああこれだけで今日、この店に来た意味があったのだと心の底から思えたんですよ。
燃え尽きたにも近い安堵感と満足感。
こんなにも綺麗なメイドのお姉さんに僕はオ○ホであんなにも激しくもぎごちなくも弄ばれたという背徳感が背中を走り、久しく味わうことのなかった形容できない何かを全身で味わう、あの喜び。
それから数十分後、酒と様々な会話に体験を経て、さすがに疲れたぼくはぼんやりと店内を見つめていました。
沢山の人がいます。 様々な人がいます。
まあ女の子は少なかったんですけど。
その中で普段から感じている何処にいても自分は一人なのだと言う孤独感が少しだけ薄れていることに気づき、深く息をはきました。
それはとても辛いもので猛毒にも近い苦しみを伴いますが決して致死性は高くなく、むしろジワジワと蝕むようなジクジクとした息苦しさなのです。
ああ一人でいる辛さよりも、集団の中に居て感じる孤独はどうしてこんなにも辛く悲しいのでしょう?
でもそれを今日は本当に僅か、まさに中指程度ではありますが緩和されたのです。
ですから先ほど出たものは溜息ではなくて、なんとも照れ臭く、小さくも何かをやり遂げたという幸せが込められた代物でした。
とはいえ、そこで一つの確信を得ます。
今日はもう潮時だなと。
もちろんもう少しこの楽しさの中に居たいという願望はありました。
しかし久しぶりにした会話とアルコールが肝臓から代謝され、アセトアルデヒドとなって身体を周り始めていることに気づき、
そして今日は女の子と一緒にお店を出ることは適わないという現実的な判断によってここが引き際だと思考せざるを得なかった。
まあ後者に関しては我ながら夢見過ぎだろとは思いますけど。
最後に大会の賞品としてのドリンクチケットを5枚受け取り、一枚をウオッカに。
残りの4枚のうち2枚はメイドのお姉さんずへ。
そして最後の2枚を同じく今日初めて来店した二人組のイケメンお兄さん達に渡し、共にまたあったら一緒に飲もうと約束をして一気に飲み干して店員さんに退店を告げました。
かくして僕は今日『せいこう』することなく『せいこう』したのです。
けれど次こそは『せいこう』してまたここに戻ってきて『やるぞ』と希望を抱いて店を出ると外は雨が降り、コートを着ても少し肌寒くもありました。
でも心は暖かく足取りはとても軽かった。
それをここに記して、終わりにさせていただきます。
ログインしてコメントを確認・投稿する