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2019年08月22日22:12

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歌劇 《死者の家から》(ドストエフスキー/ヤナーチェク)

2018年4/16、NHK-BSの[プレミアムシアター]で放送されたのは、チェコの作曲家ヤナーチェク作曲の歌劇《死者の家から》。
随分時間が経っているが、ようやく録画を見る事ができた。

フィンランド「サヴォンリンナ・オペラ・フェスティヴァル2016」からの公演収録である。

原作はドストエフスキーの長編小説『死の家の記録』。ドストエフスキー自身のシベリア流刑(1849-54)の体験から作られたものだ。
作曲だけでなく台本もヤナーチェクが書いた。
この作品は、9作ある彼のオペラで最後に創作された。完成が1928年5月、肺炎で亡くなったのが同年8月である。
初演は死後に行われた。

歌劇《死者の家から》(3幕/チェコ語)(1927-28)
原作 フョードル・ドストエフスキー(1821-81)/『死の家の記録』(1860-62)
台本・作曲 レオシュ・ヤナーチェク(1854-1928)
初演 1930年チェコ・ブルノ歌劇場

本公演のデータも押さえておこう。

指揮 トマーシュ・ハヌス
演奏 サヴォンリンナ音楽祭管弦楽団/同合唱団

演出 デーヴィッド・パウントニー(1947- )(*)
再演演出 キャロライン・クレッグ
美術 マリア・ビョルンソン
照明 クリス・エリス

出演
アレクサンドロ・ペトロヴィチ・ゴリャンチコフ(政治犯) ヴィッレ・ルサネン(Br)
アリイェイヤ(少年囚) ハンナ・ランタラ(Ms)
ルカ・クズミチ(実はフィルカ・モロゾフ) ミカ・ポポヨネン(Br)
スクラトフ アレシュ・ブリスツェイン(T)
シャプキン エイドリアン・トンプソン(T)
シシコフ クラウディオ・オテッリ(Br)
監獄所長 ニコラス・セーデルルント(Br)


収録 サヴォンリンナ・オペラ・フェスティヴァル2016/フィンランド・オラヴィ城中庭特設会場公演(2016.7.26,28)ライヴ


原作タイトルの「死の家」、オペラの「死者の家」は、シベリアの監獄を指す。
最初から最後迄、場はその監獄の中である。時は19世紀半ば、帝政ロシアの時代。
登場人物は全員男、囚人達またはそれを管理する側の者達である。(売春婦がほんの僅か顔を出す。台詞はあるが歌は付けられていない。)
暗い監獄の中で男ばかりとなると色彩感に乏しくなる、ヤナーチェクもそう考えたのか、タタール人の少年囚アリイェイヤをメゾソプラノのズボン役にしている。

冒頭近くで監獄に連行されてくるのは、アレクサンドル・ペトロヴィチ・ゴリャンチコフ。ドストエフスキー原作は自身を彼に投影している。
貴族の政治犯はこの監獄では珍しい。他は、殺人や窃盗を犯した者達が殆ど。
ゴリャンチコフは、態度が横柄だと言われ、所長に私物(コート,スーツ,ネクタイ等)を剥ぎ取られて、鞭打ち100回の罰を受ける。
彼が中心になって物語が展開すると思いきや、さに非ず。中間では大した仕事が与えられていない。その代わり、囚人達が、ルカ・クズミチから次々、自分の犯罪を告白していく。
そういう意味では、ヤナーチェクがドストエフスキーの原作から何を取り込みたかったのか、大いに疑問がある、囚人達の犯罪の告白をずらずらと並べて、起承転結の物語が作れるか? テーマは一体何か?
前奏には彼の代表作《シンフォニエッタ》(1926)のモチーフがモザイクのように使用されるなど、音楽面では多様な展開の面白さがあるが、囚人達の独白部分になると、どうしてもくだくだしく感じられてしまう。

第2幕後半、監獄で復活祭が行われる。
復活祭では労役は免除され、囚人達による演劇が催される。「ドンファン」と「美しき粉屋の女房」の説話を混ぜたようなドタバタ劇だ。勿論女性役も男囚が演じる。
昔から色欲と暴力沙汰は世の常というたとえか?

第3幕は「監獄病院の病室」という設定になっているが、舞台は第1,2幕と同じ。
何故か主たる登場人物の殆どがケガか病気になっていて、この病室にいる。
相変わらず、囚人達の犯罪告白が続く。
シシコフが無理やり結婚する事になった相手は、フィルカ・モロゾフという悪党と付き合っていた事が分かる。フィルカが言いふらしたために、実家からも世間からも酷い仕打ちを受ける。
一悶着も二悶着もあって、シシコフは、遂に妻を殺してしまう。

シシコフの独白が終わると、近くで咳き込んで寝ていたルカ・クズミチが死ぬ。
シシコフは、ルカがフィルカだった事を覚る。
この語呂合わせは面白くなくはないが、何故そうだと分かったのか、観客にはその筋道が全く分からない。
第1幕でフィルカが告白した内容が、シシコフの話と脈絡があればまだしも、そんな布石はない。

そこへ監獄の所長がべろべろに酔って入ってくる。ゴリャンチコフの釈放が決まったと言って、これ迄の仕打ちを詫びる。
第1幕で、囚人達が檻に入ったワシをいじめる場面があった。
ワシは翼が折れているらしく、飛ぶ事ができない。「森の皇帝」も、飛べなければ囚人と同じで自由はない。
ゴリャンチコフは釈放され、やっと翼の癒えたワシも空を飛んでいく。(映像で飛翔するワシを監獄の壁に映しだす。)
囚人達は自由への憧れを合唱する。
音楽は山を作ってバサッと終わるが、囚人達は作業場に戻るよう命令され、彼等の歩く靴の音が舞台上に空しく響く。


(*)パウントニー演出の歌劇は、過去に2つ観ている。

・《マクベス》(ヴェルディ)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1941269850&owner_id=3341406
・《パサジェルカ》(ヴァ―インベルク)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1738850794&owner_id=3341406
 
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