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2018年08月30日00:44

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猫小説『至福の時』

猫小説『至福の時』

 眠い。私はいつだって眠い。しかし、朝はパッチリ目が覚める。夜食べ残したご飯を平らげて、家族が起き出すのをひたすら待っている。すると親父の足音がして、私の体のコンロに火が灯り、鍋がグツグツ言い始め、ついには鍋の蓋から湯気が漏れるてくるのだ。
「ミャーオウ、ミャーオウ、」
 だからって、親父は直ぐには来てくれない。私の部屋を通り過ぎ、個室に入って、「ジャーー、」の音が鳴り止まないうちに出てきて、やっと部屋の戸を開ける。
 私の鍋の蓋も一緒に開き、沸騰の振動で視界が揺れる。親父の姿が斜めに見える。あゝ、居ても立っても居られない。私の鼻先と親父の鼻先が触れて、目の前に花が咲く!
「Ryukuーn!ohayoー」
 親父は何やら呪文を唱えてくる。私も負けじと
「グルグルグルー」
 と呪文を唱える。普段は背中を撫でられるとキックをお見舞いするが、この時ばかりは背に腹は代えられない、撫でられても、抱っこされても、何でもオッケー!
 私はケージの上から座椅子に座る親父のお膝の上にと移され、上機嫌。だが、居ても立っても居られない。抱っこからスクリュードライバー降りを見せてカーペットに9.85の着地を成功させると、弾む心を抑えながらご飯皿を覗く。しかし、無い!ご飯が無い!えーい畜生、とやけになって隣の水をゴクゴクと飲んでいく。するとトイレに行きたくなって、
「ミャーオウ、ミャーオウ、」
 とリズミカルに歌いながら向かっていると、何が楽しいのか、親父が私を捕まえる。そして鼻先を擦り付けてくる。私も嬉しくてそれに応える。が、トイレトイレ。と親父の顔に後ろ足で蹴りを入れ、こぼれ落ちたところでトイレに行く。
「……」
 至福の時である。

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