●寄り道ついで (32)/■成長

■馬脚

　▼近頃、妻にほめられる。

　　　「あんた、成長したじゃないの」

　　　「私の言うこと聞き流すし、のらりくらりで
　　　　暖簾に腕押し、何言ってもムキになってこんし、
　　　　ひょっとして、私のウワ手をいくんじゃない」

　　　「都合の悪いことはトボケるし、ハハハハで済ます」

　　　「あんた、けっこう、笑えるようになったけど、
　　　　もしかして、わたしを馬鹿にしてるんじゃない・・」



　▼めっそうもないことである。
　　私は、妻の足元にも及ばない。

　　私はそのことを諄々と説明する。


　▼しかし、馬脚というのはすぐ現れるものである。


　　「あんたって、まぁ、クソまじめというか
　　　すぐ深刻になって、まさか、こんなに繊細とは、夢にも
　　　思わんかった」

　　「わたしは、そんなあんたに、よう耐えた。
　　　えらいもんじゃ」

　　そんなことを、きのうも証明した。



　▼「旅券事務所」のはなしを書いて、
　　ふと、

　　「しかし、一生、パスポートなど手にしない人々も
　　　大勢いることを思った」

　　などとほざいたら、
　　「無坂」さんから

　　「別に、外国に行くことが幸せじゃない」

　　と、やんわり、当たり前のことを指摘された。

　　自分を笑うには
　　まだ十年はやそうだ。


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