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2023年11月23日11:00
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名古屋フィル 第517回定期演奏会��
(続き)
11/18(土)、名古屋フィルハーモニー交響楽団の第517回定期演奏会の後半をレポートする。
◆《光に満ちた息のように》(細川俊夫)〜歌劇《ローエングリン》(ワーグナー)第1幕への前奏曲
チラシや名フィルHP等、私の見た範囲ではそういう告知もなかったが、驚いた事に、本定期演奏会ではこの2曲を連続して演奏した。
誰の発案だろうか？音楽監督で当夜の指揮者である川瀬賢太郎以外にあり得ないとは思うが。
それともこのような前例があるのだろうか？
《光に満ちた息のように》は細川俊夫(1955- )によって、2002年、和楽器笙独奏のために作られた8分程の曲。
武満徹(1930-1996)亡きあと、細川俊夫は現役の日本人作曲家として、ヨーロッパでは最も評価が高い。1976年から10年間ドイツに留学して現代音楽を学び、その後日本の伝統楽器とも向き合うようになる。
今回の笙演奏は宮田まゆみ。オーケストラの背後のP席に立ち、1人スポットライトを浴びて演奏した。この時、ステージは照明が落とされるが、指揮者もオーケストラもそのまま待機している。
笙は息を吐いても吸っても音が出るし、一度に複数の音を鳴らせる不思議な楽器。
1985年、宮田まゆみとの出会いから、細川は「螺旋」というコンセプトを見出し、円運動から線が生まれるという事を認知する。
また宮田から、笙の音がいにしえから「(天から射し込む)光」のメタファーとされてきた事を知る。
こうした背景から、ルドルフ･シュタイナー東西文化研究所に委嘱されこの曲が生まれた。
吸う息によるミの1音からスタートし、徐々に音に複雑な重なりが生まれ、また、吐く息によって、音を減らしていく。
こうしたプロセスを12回繰り返し、最後の13回目の音には、楽譜に「天に昇るように」と細川は記した。
細川は自分の音楽に神秘主義的な流れがあると考えようになった。
細川作品では歌劇《海、静かな海》を2016年にTV放送で観た。
以下レポート参。
その1)https:/
その2)https:/
演奏が終わると、客席の拍手のないまま宮田は舞台裏に退き、オーケストラ席に照明が当たって川瀬賢太郎は指揮棒を振り上げた。
ワーグナーの歌劇《ローエングリン》(1846-48)の前奏曲というと、専ら第3幕へのそれが単独で演奏される。そういう訳で、第1幕への前奏曲を私はこれ迄聴いた事がなかった。
静かなヴァイオリンの8分割音は、天空に震えるようで、笙の前曲にイメージが連なり、しばらく私はワーグナーが始まったと理解しなかった。
この前奏曲は僅か9分程であるし、私と同様の客も多々いたのではなかろうか。
本幕での主人公達の悲劇的な死を象徴して第1幕への前奏曲が終わり、川瀬に促されて、改めてステージに宮田まゆみが登場、盛んな拍手を受けた。
◆交響詩《死と浄化(変容)》Op.24(R･シュトラウス)
1889年、リヒャルト･シュトラウス25歳の作品。
日本では一般的には「死と変容」という題で流布しているが、それが相応しくないと考える人は多い。今回の「浄化(変容)」の表記は、それを意識してのものだろう。キリスト教上の教えは、日本語化が難しいケースがままある。
R･シュトラウスは生来病弱で、20歳を過ぎた頃には重病を患い、瀕死状態を経験している。その経験がこの交響詩に活かされていると言われる。
単一楽章だが、内容は4つの部分に分かれている。序奏、提示部(展開部は圧縮されている)と再現部、そしてコーダと捉える事も可能だ。
序奏部は緩やかな葬送行進曲風のラルゴで、弱音機付きの弦のシンコペーションリズムは病人の不規則な呼吸または鼓動を表し、それに続いいて木管により病人に小康状態が生まれて笑顔が浮び、楽しかった子供時代を思い出す様子が描かれる。ハープの分散和音が効果的。
その後、突然ティンパニの一撃があり、テンポ他、アレグロ･モルト･エ･アジタートに指示が変更され、提示部に入る。
生と死の壮絶な闘いが始まり、弦と木管の低音で襲い来る死の恐怖、対して生への執着が弦のテュッティで強いアクセントと3連符で刻まれる。
この闘いがピークを迎えると、一旦テンポダウン。
序奏部で現れた回想のテーマで子供時代の思い出が再現され、死の恐怖とぶつかり合う中、金管が新しいモチーフを強奏する。これが浄化(変容)のテーマになる。
各テーマは複雑に変形され、組み合わされて展開部となる。
そして、再現部では冒頭の病人のシンコペーションリズムにティンパニが加わり、死の恐怖に続くタムタムのデクレッシェンドとリタルダンドが命の終焉を表現する。
それと入れ替わって浄化(変容)のテーマが静かに現れ、全楽器による長いクレッシェンドで曲のピークを形作り、ハ長調に転調して魂の救済を表す壮大なエンドとなる。
若い時代のR･シュトラウスの「死」は、哲学的なそれでなく、あくまでドラマティズムの表現である。
当夜は、名フィルによって様々な「死」が描かれ、ホールの客は大きな拍手でその成果を称えた。
川瀬は、木管から順次奏者を支持して立たせ、喜びを共有した。
〈付記〉
席は1階２列14番。
〈参考資料〉
CD
・ヴァイオリン協奏曲《ある天使の思い出に》(ベルク)
演奏 アンネ=ゾフィー･ムター/ジェイムズ･レヴァイン/シカゴ響
録音 1992年6月
YouTube
・同
演奏 樫本大進/ローター･ツァグロゼク/N響
収録 2006年12月/NHKホール
・解説「大野和士、ベルク：ヴァイオリン協奏曲を語るPart��,�供�
講師 大野和士
収録 2019年9月/都響第884,885回定期演奏会を迎えて
CD
・交響詩《死と変容》(R･シュトラウス)
指揮 ジョージ･セル
演奏 クリーヴランド管
テキスト
・プログラム『名古屋フィルハーモニー交響楽団第517回定期演奏会 他』
執筆 広瀬大介,小室敬幸
発行 2023年11/3、名古屋フィルハーモニー交響楽団
11/18(土)、名古屋フィルハーモニー交響楽団の第517回定期演奏会の後半をレポートする。
◆《光に満ちた息のように》(細川俊夫)〜歌劇《ローエングリン》(ワーグナー)第1幕への前奏曲
チラシや名フィルHP等、私の見た範囲ではそういう告知もなかったが、驚いた事に、本定期演奏会ではこの2曲を連続して演奏した。
誰の発案だろうか？音楽監督で当夜の指揮者である川瀬賢太郎以外にあり得ないとは思うが。
それともこのような前例があるのだろうか？
《光に満ちた息のように》は細川俊夫(1955- )によって、2002年、和楽器笙独奏のために作られた8分程の曲。
武満徹(1930-1996)亡きあと、細川俊夫は現役の日本人作曲家として、ヨーロッパでは最も評価が高い。1976年から10年間ドイツに留学して現代音楽を学び、その後日本の伝統楽器とも向き合うようになる。
今回の笙演奏は宮田まゆみ。オーケストラの背後のP席に立ち、1人スポットライトを浴びて演奏した。この時、ステージは照明が落とされるが、指揮者もオーケストラもそのまま待機している。
笙は息を吐いても吸っても音が出るし、一度に複数の音を鳴らせる不思議な楽器。
1985年、宮田まゆみとの出会いから、細川は「螺旋」というコンセプトを見出し、円運動から線が生まれるという事を認知する。
また宮田から、笙の音がいにしえから「(天から射し込む)光」のメタファーとされてきた事を知る。
こうした背景から、ルドルフ･シュタイナー東西文化研究所に委嘱されこの曲が生まれた。
吸う息によるミの1音からスタートし、徐々に音に複雑な重なりが生まれ、また、吐く息によって、音を減らしていく。
こうしたプロセスを12回繰り返し、最後の13回目の音には、楽譜に「天に昇るように」と細川は記した。
細川は自分の音楽に神秘主義的な流れがあると考えようになった。
細川作品では歌劇《海、静かな海》を2016年にTV放送で観た。
以下レポート参。
その1)https:/
その2)https:/
演奏が終わると、客席の拍手のないまま宮田は舞台裏に退き、オーケストラ席に照明が当たって川瀬賢太郎は指揮棒を振り上げた。
ワーグナーの歌劇《ローエングリン》(1846-48)の前奏曲というと、専ら第3幕へのそれが単独で演奏される。そういう訳で、第1幕への前奏曲を私はこれ迄聴いた事がなかった。
静かなヴァイオリンの8分割音は、天空に震えるようで、笙の前曲にイメージが連なり、しばらく私はワーグナーが始まったと理解しなかった。
この前奏曲は僅か9分程であるし、私と同様の客も多々いたのではなかろうか。
本幕での主人公達の悲劇的な死を象徴して第1幕への前奏曲が終わり、川瀬に促されて、改めてステージに宮田まゆみが登場、盛んな拍手を受けた。
◆交響詩《死と浄化(変容)》Op.24(R･シュトラウス)
1889年、リヒャルト･シュトラウス25歳の作品。
日本では一般的には「死と変容」という題で流布しているが、それが相応しくないと考える人は多い。今回の「浄化(変容)」の表記は、それを意識してのものだろう。キリスト教上の教えは、日本語化が難しいケースがままある。
R･シュトラウスは生来病弱で、20歳を過ぎた頃には重病を患い、瀕死状態を経験している。その経験がこの交響詩に活かされていると言われる。
単一楽章だが、内容は4つの部分に分かれている。序奏、提示部(展開部は圧縮されている)と再現部、そしてコーダと捉える事も可能だ。
序奏部は緩やかな葬送行進曲風のラルゴで、弱音機付きの弦のシンコペーションリズムは病人の不規則な呼吸または鼓動を表し、それに続いいて木管により病人に小康状態が生まれて笑顔が浮び、楽しかった子供時代を思い出す様子が描かれる。ハープの分散和音が効果的。
その後、突然ティンパニの一撃があり、テンポ他、アレグロ･モルト･エ･アジタートに指示が変更され、提示部に入る。
生と死の壮絶な闘いが始まり、弦と木管の低音で襲い来る死の恐怖、対して生への執着が弦のテュッティで強いアクセントと3連符で刻まれる。
この闘いがピークを迎えると、一旦テンポダウン。
序奏部で現れた回想のテーマで子供時代の思い出が再現され、死の恐怖とぶつかり合う中、金管が新しいモチーフを強奏する。これが浄化(変容)のテーマになる。
各テーマは複雑に変形され、組み合わされて展開部となる。
そして、再現部では冒頭の病人のシンコペーションリズムにティンパニが加わり、死の恐怖に続くタムタムのデクレッシェンドとリタルダンドが命の終焉を表現する。
それと入れ替わって浄化(変容)のテーマが静かに現れ、全楽器による長いクレッシェンドで曲のピークを形作り、ハ長調に転調して魂の救済を表す壮大なエンドとなる。
若い時代のR･シュトラウスの「死」は、哲学的なそれでなく、あくまでドラマティズムの表現である。
当夜は、名フィルによって様々な「死」が描かれ、ホールの客は大きな拍手でその成果を称えた。
川瀬は、木管から順次奏者を支持して立たせ、喜びを共有した。
〈付記〉
席は1階２列14番。
〈参考資料〉
CD
・ヴァイオリン協奏曲《ある天使の思い出に》(ベルク)
演奏 アンネ=ゾフィー･ムター/ジェイムズ･レヴァイン/シカゴ響
録音 1992年6月
YouTube
・同
演奏 樫本大進/ローター･ツァグロゼク/N響
収録 2006年12月/NHKホール
・解説「大野和士、ベルク：ヴァイオリン協奏曲を語るPart��,�供�
講師 大野和士
収録 2019年9月/都響第884,885回定期演奏会を迎えて
CD
・交響詩《死と変容》(R･シュトラウス)
指揮 ジョージ･セル
演奏 クリーヴランド管
テキスト
・プログラム『名古屋フィルハーモニー交響楽団第517回定期演奏会 他』
執筆 広瀬大介,小室敬幸
発行 2023年11/3、名古屋フィルハーモニー交響楽団
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