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2023年06月04日12:00

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東京へ～国立西洋美術館「憧憬の地ブルターニュ」

(続き)

5/30～31の東京小旅行、2日目には国立西洋美術館で開催中の「憧憬の地ブルターニュ」展を観る。副題には「モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」とある。
・会期 3/18～6/11

・ブルターニュとはどんな地であったろうか？
下はその大雑把な地図。

フランスの北西の端、大西洋に突き出た半島部分。古代からケルト人が住み、16世紀前半迄はブルターニュ公国という独立国だった。
固有の言語「ブルトン語」を使い、独特の自然、文化、歴史、風俗を有し、フランスの一部となったのちも、フランス人にとっては「異郷」という思いが強くあったろう。
荒々しい断崖の連なる海岸線、深い森と荒野の残る自然、古代の巨石遺構、中世の宗教遺物、コワフ等の民族衣装をまとった女性達、特にパリを中心とした都会人とって、それらは別種の魅力に満ちていたに違いない。

・展覧会概要
本展では、19世紀から20世紀始めの画家達が、ブルターニュに何を求め、見出し、どう描いたか？に焦点を当てている。

出品作品は国内30ヶ所の美術館その他、海外の2館から集められ、展示は約160点に及んでいる。
特にブルターニュと縁の深かったゴーガン12点が集まったという事は特筆に値する。
画家は西欧人だけでなく、渡仏した日本人黒田清輝や藤田嗣治らも含まれる。

・展示構成
展示は４つの章で構成されている。

Ⅰ.「見出されたブルターニュ：異郷への旅」
Ⅱ.「風土にはぐくまれる感性：ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」
Ⅲ.「土地に根を下ろす：ブルターニュを見つめ続けた画家たち」
Ⅳ.「日本発、パリ経由、ブルターニュ行き：日本人画家たちのまなざし」

◆Ⅰ.「見出されたブルターニュ：異郷への旅」
本章はⅠ-1「ブルターニュイメージの生成と流布」とⅠ-2「旅行者のまなざし：印象派世代がとらえた風景」に別れている。

Ⅰ-1は、ブルターニュが画家達を惹きつけ始めた時代として、19世紀始めのロマン主義を挙げている。
展示はイギリスの風景画家ターナーの水彩画、フランスの画家･版画家が制作した豪華挿絵本、版画、ポスター等多数。
17世紀に始まり、18世紀に最盛期を迎えた「グランド･ツアー」はイギリスを中心とした貴族や裕福な市民が、我が子に古典を学ばせ教養を身につけさせるために行った長期旅行で、最終目的地はイタリアだった。
こうした事を背景に、交通手段も発達した19世紀には画家達の間に「ピクチャレスク･ツアー」(絵になる風景を地方に探す旅)が流行する。

ウィリアム･ターナーの《ナント》(1829)等はその走りであろう。
港にはコワフを被った女性達がたくさんいて、ここがブルターニュの一港である事が分かる。

1-2では、印象派の画家達が、パリからそうしたツアーに出かけるようになり、ブルターニュを格好の地として発見する。
ウージェーヌ･ブーダン《ブレスト、停泊地》(1872)
クロード･モネ《嵐のベリール》(1886)

そして新印象派のポール･シニャックは点描で《ポルトリュー、グールヴロ》(1888)他を描いている。

◆Ⅱ.「風土にはぐくまれる感性：ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」
ブルターニュ地方南西部の小村ポン=タヴェンには画趣に富む風景、古い建築物、民族衣装を着た人々等、豊富なモチーフがあり、滞在費やモデル代が安い事も手伝って、米英,北欧の画家達は1860年代からコロニーを形成した。
1886年には、パリの生活苦から逃げるようにポール･ゴーガンがポン=タヴェンにやってきて、1894年迄繰り返し滞在する。
本章では、ゴーガンがブルターニュで作成した12点(絵画10,版画2)を展示し、その変化を確認する。

《ボア･ダムールの水車小屋の水浴》(1886)
ゴーガンのポン=タヴェンにおける最初の作品。その筆致にはまだ印象派の影響が色濃い。

《海辺に立つブルターニュの少女たち》(1889)
この前年1888年にゴーガンはポン=タヴェンでエミール･ベルナールと出会っている。輪郭線や色彩に単純化が見える。

《ブルターニュの農婦たち》(1894)
ゴーガンは1891年に最初のタヒチ滞在をしており、一層の単純化により「綜合主義」が進んでいる。

他にエミール･ベルナール、ポール･セリュジエ等のポン=タヴェン派作品も展示。
ベルナール《ポン=タヴェンの市場》(1888)
構図の斬新さに驚く。

◆Ⅲ.「土地に根を下ろす：ブルターニュを見つめ続けた画家たち」
19世紀末から20世紀初頭にかけ、ブルターニュは保養地としても注目され、画家達の中にも、短期滞在でなく、別荘を構え、ここを第2の故郷として活動する者が現れる。
本章は、Ⅲ-1として「アンリ･リヴィエールと和訳されたブルターニュ」、Ⅲ-2として「モーリス･ドニと海辺のアルカディア」、Ⅲ-3に「”バンド･ノワール”と近代ブルターニュの諸相」と分割されている。

Ⅲ-1、リヴィエールの版画連作《時の仙境》(1901)より〈満月〉と〈薄暮〉。
葛飾北斎や歌川広重等の浮世絵の影響が見てとれる。

Ⅲ-2、ナビ派のモーリス･ドニは、明るい色彩と光で楽園としてブルターニュを描いた。
《花飾りの船》(1921)
ドニの家族と日本のモチーフが描き込まれている。

Ⅲ-3、「バンド･ノワール」は1890年代から起こったポスト印象派の1グループで、クールベの影響を受け、ナビ派とと対照的に、暗い色調で写実的な作品を描いた。
シャルル･コッテ《悲嘆、海の犠牲者》(1908-09)
磔刑から下ろしたイエスのイコンを想わせるのは画家の企図だろう。

◆Ⅳ.「日本発、パリ経由、ブルターニュ行き：日本人画家たちのまなざし」
こうしてブルターニュが西洋絵画のテーマとして定着し、表現が多様化していく19世紀末から20世紀初頭に、芸術先進都市パリに留学してきていた日本の画家達。彼等もブルターニュに興味を持ち出かけて行った。彼等にとってブルターニュは「異郷の中の異郷」だったろう。

黒田清輝《プレハの少女》(1891)
のちに日本で描く外光派の画風とは全く違って荒々しい。
帰国後もこうした絵を描いていたら、日本の洋画の展開は全く異なったものになったかもしれない。

他に久米桂一郎《林檎拾い》(1892)、版画家山本鼎《ブルトンヌ》(1920)、藤田嗣治《十字架の見える風景》(1920)、岡鹿之助《信号台》(1926)等々。

〈参考資料〉
・「憧憬の地ブルターニュ」展音声ガイド
　制作アートアンドパート
・TBS「旅する展覧会」『「憧憬の地ブルターニュ」展」
　放送 4/2
　配信 TVer

(続く)
　

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