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2020年04月02日07:33

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小編『 SAKURA PANDEMIC 』

「人っこ一人居ないなあ。」
 二人で通りを歩いているが、俺たちの他には人影も自動車さえも見かけない。国がやっと厳戒態勢に踏み切ったからだ。
「お前幾つだよ、そんなオッサンみたいな言葉よく言えるな。」
 そんな風に奴はいつも俺にツッコミを入れてくる。
「じゃあ、お前なら何て言うんだ。」
 奴は冷ややかな表情で前を向いたまま、俺の言葉が聴こえたのか聴こえなかったのか……
「閑古鳥が鳴いてるぜ。」
「……何だそれ、お前も同レベルじゃねえか。」
 やはり表情は変わらない。
「人が倒れていく原因にウイルスが疑われたが、今までにそれらしきものは発見されていない。オッサンは何が原因だと思う?」
 今年配属されたアンドロイドは少々変わり種で、調査主任の俺に対して純朴であるようなプログラミングはなされておらず、難事件を解決に導くため、思考パターンをずらして設定されているらしい。俺には、そのズレがこれまでとは違った人間臭さを感じさせて興味をそそる。
「やかましやい、口の減らん奴や。まあいい……気圧の瞬間的変化、あるいは気功術、催眠術によるもの、しかしどれも、多数の場所で数百人が一度に倒れる原因には……」
「コンピュータウイルス。これなら世界各地で同時多発している理由になる。」
 頭が良いのか悪いのか、やはり思考が随分とズレている。
「呆れたな、じゃあ何故お前たちアンドロイドは倒れないんだ。」
 相変わらず前を向いたまま歩いている。
「人間にだけ作用する催眠術のようなもの。しかし、大量に倒すためには音声ではなく、画像の文字配列や、過去に使用されたというモールス信号を光の点滅などで送ったり。そんなところじゃないか?」
「もしかして……スマートフォン?」
 奴は初めて俺の方を向いた。微かだが楽しそうに頬が上がっている。
「そう。一番怪しいのは、丁度パンデミックの直前に配信されたモバイルゲーム【SAKURA PANDEMIC】これに何らかの仕掛けが施されている。」
 俺は立ち止まり、奴は少し前で俺の方へと振り返った。
「何のために……」
「至急プログラマー全員を拘束すべきだな。」
「ああ、本部に連絡する。」
 おそらくこいつのようにズレた奴が仕組んだに違いない。これは特別な意味などは無い世界的テロ。あるいはこれから、全ての人間を操ろうとしているのか。俺はスマートホンをホルダーから取り出した。



終わり
数年前に書いた未公開の物を大幅に書き直しました。以前とは随分違った雰囲気になったのは、僅かでも作文能力が成長してるってことになるんだろうか、最近ほとんど書いてないけど……
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