●2014年03月16日 (日) 晴れ
▼「キツネくん、どうだった?」
「あれっ、しっぽ出てますか?」
「あっ、失礼! 木常くん・・」
「オレ、つくづく人間いやになった人の話、むかし
聞いたことあるんやけど、人間いやになってもて、
クモにも、カイにも、カゼにもなられへんから
自殺しょうか、思うたけど、よう考えたら、その人
お尻に、しっぽ生えとったんやて。それで、よおやく
自分がキツネやったことに気付いて、そんなら何も
死ぬことないわゆうて、しっぽが消えとるときも、
『キツネはキツネ!』ゆうて、えらいこと長生きした
らしいんや!」
「なに、その話? 人間の話? キツネの話?」
「いや、ようわからんけど、むかし話や」
「キツネの昔話?」
▼「むかしから、先祖はいろいろ化けたりしとったので、
なかには、まるっきり人間になってもうて、しっぽも
出んようになったヤツがおって、それで人間のように
悩み、人間のように考え、人間のように人間嫌いになって
人間並にウツになったりして、しかも、おカネにも困って
もうよう生きてけん、ゆうて、人間として死んだヤツも
おったらしい」
「へえーっ、そんな話、聞いたこともないナー。あの柳田国男
だって、そんな話は採取してないと思うけど・・」
「それはそのはずです。内山さんが書いとったように、
1965年前後からキツネも変化したのです」
「ほーっ、そうなの? それ本当の話?」
「ナラトさん、オレに変なこと聞かんとってください。
むかしから『話』は本当と思えば本当、ウソと思えば
ウソに決まっているでしょう!!」
▼「ええっ・・、いよいよ、こんぐらがって、キミの言うこと
わからなくなったんだけど・・」
「いえ、そう真剣にオレの言うこと聞かんでもええですよ。
オレも『話』というものをしとるのですから」
「はぁ、『話』ね・・」
「どこまで話したか忘れるじゃないですか・・。ああ、そうそう
キツネも変化し、内山さんの言うように人間も変化した、ちゅう
ことでしたね」
「そう、時期は別として、高度成長期あたりから日本社会は
社会も人間も、そして『キツネの話』も変わっていき、いつの
まにか、キツネは人間を化かさなくなった、いや化かされる能力を
人間は失った・・、というのが内山さんの書いている所なんだけど・・」
▼「ナラトさんは、『目からうろこ』なんて書いていますけど、
オレ、あんまり評価でけへんように思うんやけど・・」
「えっ、どうして?」
「うーむ、ナラトさんも言うてるように、内山さんは『キツネに
だまされた話』を実際に経験として聞いてないのに、『全国各地で
そんな話を聞いた』ように書いているのが、まずボタンの掛け違い
のように、オレは思うけど・・」
「どうゆうこと、それ?」
「つまり、結論先にありき、その結論のために、『キツネにだまされる』
ちゅう事が利用されている、そんな印象やねん」
▼「わたしも、それはそう思うけど、『異なった「霊的歴史」のなかに
生きている「二様の人々」・・』などの指摘は、けっこうイケテルん
じゃないだろうか」
「う〜ん? どうだろうか。言葉としての指摘は正しいとしても、
内山さん自身がどうなんだろう?」
「え、えっ・・。それ何のこと?」
「もし、内山さんが本気で、本当に『キツネにだまされる話』について
村の人たちに聞いておれば、聞いたときの臨場感あふれる報告が、
『本』に書いてあると思うんだけど、何にも書かれていない。
それに、オレがさっき話したような『キツネの話』も採取されて
ないし・・」
「えっ、もし村の人に聞いたら、そんな話をしてくれたの?」
「もちろん、なかには、もうキツネであることを忘れたキツネも
おったはずやから、ようよう話を聞き出したら、さっきのオレの
ように、しっぽ出すヤツもおったはずや!」
▼「人間もキツネの心がわかるから、化かされるし、ひょっとすると
自分はキツネかも知れんと思うから、キツネから人間が生まれたり
するんや。『キツネ憑き』なんか、昭和になってもまだあったゆうて
聞いとる。葛の葉から安倍晴明が生まれたのは『文学』や『演劇』
ではないやろ。『キツネの血が混じる』ゆうて本気に思うとったれば
こそで、それこそが『霊的歴史』ちゅうもんや、とオレ思うけど・・。
『霊』ゆうたら幽霊みたいやけど、精神的・心理的な認識の歴史や」
「う〜ん。なんかキツネくん、むずかしくなってきたね」
「いや、簡単なことです。キツネも人間も、みな何かを信じている
ちゅうことです。オレはニワトリを信じているし、人間はおカネを
信じている!」
「なに、なに?」
「オレも現実を信じているし、ナラトさんも現実を信じている。
しかし、信じている『現実』がどのように見えているか、それは
違っているかもしれない。現に、おカネでも、オレに葉っぱに
見えても、ナラトさんには、『紙切れ』ではあるが、やっぱり
『おカネ』に見えてしまう・・。これが『現実』といもんの働きを
『認識』するちゅうことです。
火星人から見たら『人間』は変な動物に見えるという『話』です」
▼「あぁ、その『火星人の話』なら、ぼくも知っている。そして『紙切れの話』
もよく知っているよ」
「で、ナラトさんは、あと2つ、3つ、あの内山さんの『本』から
紹介したみたいだけど、そんな話より、これは内山さんが実際に
村人から聞いたのだとおもうけど、『山あがり』の話のほうが
いいと思うけど・・」
「ああ、『山あがり』の話ね。あれは、ぼくもいいと思うね!」
「オレの話、参考になりましたか?」
「ああ、よくわからん所がいっぱいあったけれど、なんか
参考になったような気もするよ」
「じゃ、オレ、散歩行ってきます」
「あっ、そう。じゃあ、また寄ってくれたまえ」
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