●2014年03月11日 （火） 晴れ
▼きのう、マイミクさんが「タランテッラ」について書いていた。
「タランテッラ」とはイタリア生まれのダンス曲で、毒蜘蛛の
タランチュラにさされた場合の治療用の踊りであったらしい。
そして、マイミクさんは「狐憑き」など想起して
「秋の火や山は狐の嫁入雨 一茶」
の句が添えられていた。
・
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1922909373&owner_id=2201311
▼わたしはそれを読んで、柳田国男の『孤猿随筆』のなかにある
「狐の嫁入り」を思い出した。
「本」をとりだしパラパラ読んでいるうちに、いつしか
眠ってしまっていた。
▼さて「狐の嫁入り」であるが、いつものとおり「ウイキペディア」を見てみる。
「
ウイキペディア」には、こう書いてある。
狐の嫁入り（きつねのよめいり）は、日本の本州・四国・九州に伝わる
怪異。
「狐の嫁入り」といわれるものには、
昭和中期頃までの嫁入り行列の提灯の群れを思わせる夜間の無数の怪火、
俗にいう天気雨、
古典の怪談、随筆、伝説などに見られる異様な嫁入り行列などがある。
いずれも伝承上で人間を化かすといわれたキツネと密接な関連があり、
平成以降の現代においても、それらにちなんだ神事や祭事が
日本各地で開催されている。
▼この解説者は、すべてを「怪異」という現象としてとらえ、次に
�＿覇�り行列の提灯の群れを思わせる夜間の無数の怪火
��俗にいう天気雨
�２�談、随筆、伝説などに見られる異様な嫁入り行列
これら３つを「狐の嫁入り」と言っている、としている。
▼�△弔い討蓮◆�(昼の)天気雨」のことを、単に、別の言語的表現として
夜の「怪火」の連想から「狐の嫁入り」という「言葉」で言ったまで
とする立場もある。
昼の「狐の嫁入り」は、果たしてどの程度、当時、人々は、キツネの
「怪異」と(大まじめに)思っていたか、疑問なところもある。
本来、人もキツネも嫁入りは夕方から晩にかけてであり、「狐の嫁入り」は
夜のことであって、夜の「怪火」が気になる。
一方、昼間にキツネは嫁入りしたのか、これがよくわからない。
昼に嫁入りだなんて、そんなヘンな事をするから雨が降る、と言えば言える。
よくある「嫁入りを隠すために昼、天気の時に雨が降る」とするのは、
その後の解釈・注釈のたぐいではないか？ とも思える。
(江戸期にはすでに、「夜の怪火」と「昼の天気雨」の両方の「狐の嫁入り」
があり、北斎の『狐の嫁入図』(昼)などは、本来の「怪異」というより「風雅」に近い)
ついでに言うと、
一茶の「秋の火や山は狐の嫁入雨」の句も、「火」は「怪火」であり、
あきらかに昼の天気雨ではなく、「夜」の句だろうと、素人としては思う。
▼さて、人と動物の付き合いには「長い歴史」があり、中でも
キツネとの付き合い行はながい。
人々は、キツネにだまされ、化かされ、あるいは、いろいろと
助けてもらったりしてきた。
ときには、「キツネに憑(つ)かれる」こともあった。
しかし、これには人間の側に、キツネにだまされたり、
化かされたり、あるいは憑かれたり、
あるいは、反対に、キツネに感謝され、お礼を言われ、
恩返しをうけるだけの「能力」が人間の側にも求められ、
人と動物とのあいだに必要とされる条件でもあった。
▼そして、動物は失敗もするが、多くは人間より高い
別次元の「能力」をもち、その「能力」を発揮するためには
人間にも、これに対応する「能力(コミュニケーションの力)」が
必要だった。
▼前置きはこれくらいにして、ともかく柳田国男『孤猿随筆』の中の
「狐飛脚の話」を読んでみよう。
以下、書き写す。
■「狐飛脚の話」 / 柳田国男『孤猿随筆』より
初出： 原題「狐飛脚」
『動物文学』第59号・60号 白日荘
昭和14年(1939年)11月1日、12月1日
狐飛脚の話
（一）
狐と人間との交際、 という言葉が穏かでないならば両者の
間柄は、 永い年月の間に幾度かの変化をしている。
その変遷の歴史なども、 やはり私は明かにして置く必要が
あると思っているのである。
普通の考え方から言うと、これは主として人間の態度、
または狐に関する常識ともいうべきものが改まったので、
相手方は全然与かり知らぬことのようにも見えるが、
実際には少なくともその影響の下に、狐の生活にも段々の革新が
現われているのである。
そう多くの例証を挙げるにも及ぶまいが、たとえば彼等の食性、
即ち何を食って活きて行くかということなどは、 獣としては特に
大切な要件なのであるが、それが我々の供給によって変って来て
いる。
どうしてそのようなことを言い始めたかは、別に一つの問題と
して考えて見るとして、ともかくも狐は小豆飯、揚豆腐のような
ものが好きだということになって、人がそういう物を穴の口へ
運んで行く風も大昔からではない。
それを狐が果たして食うか否かは私はまだ確かめたことはないが、
穴守稲荷などでもいうから多分事実であろう。
小豆飯はまた山村では狼の産屋見舞にも、時としては送り狼への
御礼にもこれを炊いて与えたという話がある。
そうして狐や狼が原始から、 この類の食物を欲しがったであろう
ことは、 動物学では先ず想像していないのである。
家畜においてはこれは殆と明白なる変化で、多くの仔犬は味��汁で
育ち、私の知っている老猫には、奈良漬の瓜をよく食ったのさえ
あるが、野獣もこの如く、知らぬ間に祖先のせぬことをするように
なっているのである。
豆腐の油揚げは申すに及ばず、小豆の飯とても中古に採用せられ
た人間の文化なのであるが、 それが拡張せられると終には狐狼の
生活様式までも、一変させずにはおらぬとぃうことは、深く考えて
見るべきことだと思う。
多くの自然観察には、外国人の記述を移して、めいめいの経験と
なし得るかの如き予断を以て、各自の骨折りを省略しようとする
傾向が見られるが、こうぃう一つの島限り、民族限りの偶然の
変遷が、幾度かあったことを考えると、その方法は決して安全だ
ということが出来ない。
それと同様に現在の特色だけを見て、 大昔もこの通りであった
として、国固有のものを想定しようとするのも、歴史に目をつぶった
無謀の挙と評するの他はない。
これは狐以上にもっと重要な、 精神文化の現象にも適用し得ること
だが、私は先ず狐において予習して見るがよいと思っている。
狐が飛脚使いをしたという話を考究する前に、順序として上代の
狐が、人に対して一般に今よりも多くの好意をもち、もっと平和な
交渉を保っていたらしい、ということを説いて見たいのである。
以上、「狐飛脚の話」(一) おわり
※「
穴守稲荷」 （あなもりいなり)
「
産屋見舞」 （うぶやみまい）
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