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2011年09月05日20:30

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■タバコ屋

●9月5日(月)  曇り

 ▼きのうは日曜日で、妻はゆっくり目の出勤だった。
  12時近く、妻と一緒に下まで降りた。
  タバコを買うためである。

  雨はまだ降っていた。
  霧雨のような細かな雨だった。
  椿谷公園の横を通ると、雨の中、ツクツクボウシが
  鳴いていた。


 ▼駅前のタバコ屋は、ここに引っ越してきたとき
  タバコ屋というより、コメ屋がメインの店だった。

  店では、コメのほか、酒とタバコを売っていた。
  ときどき店で、そこの息子がコメの配達を手伝っているのを
  見かけた。

  コメの消費量が減って行ったためか、それとも
  同じ商業施設に入店している生協の店に押されてか、
  いつのまにか、コメは扱わなくなった。
 

 ▼そして、これも気づかぬうちに
  いつの間にか、店頭に主人夫婦の姿がなくなり、
  息子が一人つくねんと、レジのそばで腰かけているのを
  見かけるようになった。

  息子は、手伝いをしているとき、不承不承やっている風だったが、
  座っている彼は、前よりも一段と不機嫌そうな感じだった。


  上から下りていくと、その店は、生協の店や駅のキオスクよりも
  手前にあるので、面倒なときは、たまに、その店で酒やタバコを
  買った。

  しかし、レジでおカネを払っても、たった一度も
  この息子に「ありがとございます」と、礼の言葉を言われたことがない。

  
 ▼あるとき店に行くと、息子の替わりに、三十半ばで愛想のいい女性が
  レジに立っていた。

  妹さんだろうかと思っていたが、それからしばらくして、
  息子とその女性とが一緒に店にいるときに出くわした。

  息子は相変わらず、むっとして口もきかず商品の出し入れをしており、
  彼女の方がにこやかに客との対応をしていた。

  二人の関係をそれとなく見ていたが、パート店員でも、妹でもなく、
  彼女は息子の嫁さんであるようだった。


 ▼嫁さんが一人、店先に立つこともあれば、
  息子が店番をしていることもある。

  店舗だけの店で、住まいは別のところにあるようなので、
  いままで一人の時は、昼の食事やトイレはどうしていたのだろう、
  なんて、そのとき改めて思ったりした。

  嫁さんを見かけるようになってから、少しは笑うように
  なったかと、私はときどき息子の顔を見に店に寄ったが、
  ちっとも変化がなかった。


 ▼今年3月、震災があってタバコが品切れになった。
  国産のものがなくなり、「マルポーロ」や「ラッキーストライク」などを
  吸った。
  
  そのうち国産品も少しずつ出てくるようになったが、
  私が吸う「ハイライト」は品薄で、もし学生時代に吸っていた「わかば」があれば、
  それを買うことにしていた。


 ▼いまごろ「わかば」を取り扱う店はもともと少ないのだが、この店はどうしてか、
  「わかば」を品ぞろえしており、震災の時でも、「お一人様2箱まで」の制限なしに
  1カートンでも売ってくれた。

  それで度々、店に立ち寄るようになり、
  私が「ハイライト」や「わかば」の在庫を確かめ、品切れだと、
  息子はニャッと笑って、「ありません」と答えるようになった。


 ▼きのうも雨だったので、手短に済まそうと、
  この店に寄った。

  いたのは息子の方だった。
  相変わらず「いらっしゃいませ」とも言わない。
  
  「わかば、1カートン」と注文すると、棚から引きだし
  黙ってポリ袋に入れ、私によこした。
  レジに立って「2500円です」と言うので、私は五千円札を出した。
  釣銭を渡すとき、私と目があった。すると、一瞬、彼は口ごもったようだった。
  「・・・・」
  しかし、結局、彼は何も言わなかった。


   

 ▼きょう、ツクツクボウシは朝から鳴いていた。
  もうこれが最後だなぁ、と思った。

  夕方、仕事からの帰り、きのうの事を思い出した。
  タバコ屋の前を通ったが、中は覗きこまなかった。
  息子がレジのそばに座っているような気もした。

  タバコ屋を通り過ぎ、幼稚園の横を通って
  椿谷公園の脇の階段を上がって行った。

  いつもと同じ時刻なのに、先週よりも
  ずっと薄暗い感じがした。

  どこかでツクツクボウシが鳴いていないかと、
  私は耳を澄ましたが、どこにも鳴いている様子はなかった。
  うすい雲の間に、半月の白い月が見えた。



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