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2023年03月15日18:03

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木崎みつ子著『コンジュジ』

木崎みつ子(1990- )が2015年から5年かけて書き上げた『コンジュジ』を読む。

この小説は木崎のデビュー作で、2020年にすばる文学賞を受賞、芥川賞候補ともなった。

タイトルの「 cônjuge 」はポルトガル語で「配偶者」を意味する。

5年かけたと言ったが、木崎は性的虐待の物語を書くと決心したものの、「せれながリアンに恋をしたのはもう二十年も前のことだ」と1行書いたあと、殆ど何も書き継ぐ事ができずにいたらしい。
このテーマを「安易にとりあげていないか」、木崎はそう自問を繰り返した、「小説で何かを変えられるとは思いませんが、傍観者ではいたくなかった」とも。

せれなが小学生の時、勝手気儘な母は(恐らく愛人の許へと向かって)家を出ていき、そして父が飲み屋から連れ帰ったブラジル国籍の大きな体の「新しいお母さん」もいつの間にか去っていった。
2度手首を切って自殺未遂をした父は、その後せれなを支配し、性的虐待を続けるが、本人はそれを虐待だと思っていない。
これが困ったところだ。父はそれを愛だと思っているし、娘も自分を愛していると思い込んでいる。
せれなはこの事の実態を理解できないまま、誰にも話す事ができずに成長していく。

逃げ場のないアパートの1室で、せれなはとうに死んだ英国のロックグループの歌手リアン･ノートンをテレビの記念番組で知り、恋人として空想の世界に浸る。
どんなに深刻な状況下でも、人は生き延びるために喜びを見つけだそうとする。
せれなはリアンのコンサートツアーに同行し、またリアンもしばしばせれなのアパートにやってきて生活を伴にする。
過酷過ぎる現実と妄想の世界の間を行き来する間に、せれなは何が実際に存在する事で何が空想上の事か、区別がつかなくなる。
リアンが日本語を話すのも変だと思わない。
読者にも次第に境目が何処にあるのか分からなくなる。

ある夜、父親と戻ってきた継母との間に暴力沙汰が起り、2人はあっけなく死んでしまう。

せれなも中高校生になると、リアンが、才能に満ち溢れたカッコいいロックスターかどうか疑問を持つようになる。
せれなが読まないようにとリアンが隠していた暴露的な伝記本を読むと、そこにはリアンの滅茶苦茶な生活の実態が描かれていた。
相手に夫がいようがいまいが次から次へ女性を替え、少女に手を出した事もあるらしい。
グループ内ではメンバーを牛耳り、酒を浴びドラッグを常用している。酒とドラッグは彼の心身を蝕んでいき、それから逃避するためまた酒とドラッグを使う。
グループのメンバーが、彼も父親に暴力を振るわれて育った事をせれなに教えてくれる。
本には、リアンが数十年前既に死んでいる事も書かれている。休暇先のスペインで強盗の暴行を受けて溺死した。

何百回も繰り返して見たライブ映像をせれなはまた見る。
美しいリアン、慈愛に満ちた表情でピアノを弾くリアン。
演奏が終わると、リアンは何処からかやってきてせれなの隣に腰を下ろし、彼女に寂しい声で語りかける。
せれなは、自分が父を怒らせたせいで継母は殺される事になったとリアンに告白する。
リアンはせれなに優しく言う、君は何も悪くない、自分を責めるのはよせ、と。
そして、りあんは何処かへ消えてしまった。

リアンの元妻は、その後、年下の若いスポーツマンや大道芸人らと2度の結婚。
リアンの娘はバンド活動をしていたが、歌は上手くない。彼女も若くして結婚と離婚。
リアンの愛人だった女優は、フランスの元大統領、イタリアの彫刻家、香港のアクションスター、資産家の老人と結婚しては離婚。彼女の書いた暴露本は物議を醸した。

せれなはある日2本のシャベルと白いバラを持って、リアンが葬られている墓地へ向かう。
そのあとはここで書く訳にいかない。

すばる文学賞選考委員の川上未映子はこう評している、
「サバイブの果てに辿り着く、こんなに悲しく美しいラストシーンをわたしは他に知らない」。

『コンジュジ』
　執筆木崎みつ子
　発行 2021年1/25、集英社
　初出「すばる」2020年11月号

〈参考資料〉
Web
・「集英社文芸ステーション」～『コンジュジ』木崎みつ子
　　　対談木崎みつ子×川上未映子(2020年11/20)
・「好書好日」～木崎みつ子さん『コンジュジ』インタビュー(2021年2/13)
　

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