静岡文化芸術大学の授業「国際文化入門C」の聴講第9回目。
講師 石川清子
テーマ イスラームとは、〜マグレブ
【基本】イスラームとは
アラビア語で「al-Islam」。
世界宗教の一つ。
7世紀初めに、アラビアのメッカでムハンマド(モハメット)が創唱した。
ユダヤ教,キリスト教と並ぶ一神教で、神からの啓示の記録とされるクルアーン(コーラン)が聖典。
信仰の基本として、唯一神アッラー･天使･予言者(*)･終末と来世･予定(天命)の6つを信じる事(「六信」)。実行すべき基本的義務としては、信仰告白･礼拝･喜捨･断食･メッカへの巡礼等を行う事(「五行」)がある。
(*)預言者=モーセ･アブラハム･イエス･ムハンマド
イエスは神でも神の子でもない、一預言者との扱い。
ムハンマドも神ではない、最後で最大の予言者。
多数の派があり、特にスンニー派とシーア派に大別される。
アフリカから中近東、東南アジアにかけて約7億人の信徒がおり、独自の社会、国家を形成している。
・「イスラーム」=「唯一の神に絶対帰依すること」の意。「教」を付ける必要はない。
・「ムスリム」=イスラームを信仰する者。
・610年頃、ムハンマドがメッカ(現サウジアラビア内)郊外の洞窟で、天使ジブリール(ガブリエル)より神アッラーの啓示を受けて始まる。
クルアーン(朗誦されるものの意)は預言者としてのムハンマドがアッラーの啓示を、自らと後継者が著した聖典(古典アラビア語による)。(*)
(*)書き言葉としてのアラビア語と、現代において会話で使われるアラビア語には大きな乖離がある。アラビア語の複雑さ。
・622年、メディーナに移住。これを「聖遷」(ヒジュラ)と呼ぶ。この年を元年としてヒジュラ歴ができている。
1年が354日のため、西暦とはずれる。
第9月=断食月
第12月=巡礼月
毎年ずれていくから、第9月が秋、第12月が冬とは限らない。
・「六信」とは、ムスリムが信じなければならない6つの信仰箇条。上記。
・「五行」とは、ムスリムに義務として課せられた5つの行為。
�� 信仰告白「シャハーダ」
「アッラーフの他に神はない。ムハンマドは神の使徒である」と証言する事。
少なくとも3人の立ち合い者が必要。
�� 礼拝「サラート」
1日5回、キブラ(メッカのカアバ神殿の方向)に向って神に祈る事。
集団礼拝日=金曜日
モスクには普段他教信者でも入れるが、金曜日の集団礼拝日には入れない。
�� 喜捨「ザカート」
収入の一部を困窮者に施す事。
アラブ世界には物乞いが多い。特に女性が多いと言う。
イスラーム社会では物乞いをする事にひけ目を感じる必要はない。
金曜日のモスク周辺には、物乞いの多数並ぶ光景が見られる。
�� 断食「サウム」
ラマダーン月の日中、飲食や性行為を慎む事。
人間は弱い者との自覚をする。全員の一体感、共同体や結束を生む。
夜は解放されるためも殆ど祭となる。
�� 巡礼「ハッジ」
経済的･肉体的に可能であれば、ヒジュラ歴第12月(巡礼月)の8日〜10日の時期を中心に、メッカのカアバ神殿に巡礼する。
これだけは、絶対にしなければならないとはされない。
男女共、この時は白い服をまとってカアバ神殿の周囲を巡る。
アラブ諸国以外での例
・東京ジャーミー(代々木上原)
「ジャーミー」=広場、人が集まる場所。
トルコ文化センターを兼ねる。トルコ式モスク。
何処でも同じだが、モスクでは男女は別の場所で祈る。
・パリ18区
大きなモスクがないため、金曜日には大人数のムスリムの路上礼拝となる。
18区は北アフリカからの移民が多い。
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◆マグレブについて
1.マグレブMaghreb
アラビア語で陽が没する場所=西方の意。
(反対語マシュリク=陽が昇る場所)
北アフリカ、主にモロッコ、アルジェリア、チュニジア3国の総称。(リビア、モーリタニアを含む場合もある。)
2.モロッコ、アルジェリア、チュニジアの地理
地中海沿いに狭い平野とすぐ後ろに迫る山脈。その後ろ(南)は広大な砂漠。
3.フランス植民地支配の影響
・モロッコ
ベルベル人比率40％。
アラブが東から侵入する前からの原住民。詳細は後述。
フランスの統治；1912〜56、仏保護領として。
現在は立憲君主制(国王ムハンマド6世)。
観光に注力。
・アルジェリア
ベルベル人20%。
1830〜1962、132年間と長い期間仏の県の扱い、つまり植民地だった。
1954〜62、独立戦争。
その後は社会主義路線を進む。
一党独裁、1990年代は原理主義者のテロ多発。「暗黒の10年」で10万人が死んだとも。
1970〜80年代、バブル期の日本企業、石油資源を求め、インフラ整備の役割を担い進出したが、1990年代に殆ど駐在から撤退。
・チュニジア
ベルベル人2%と少ない。
1881〜1956、仏保護領。
政教分離政策。
「ジャスミン革命」=「アラブの春」のきっかけとなった。
独裁大統領の追放。
革命前は西欧型観光地だった。現在も観光立国。
4.マグレブに出自を持つフランス人
ジネディール･ジダン；サッカー。マルセイユ生れ、両親はアルジェリアのカビーリ人。
イブ･サン=ローラン；アルジェリアのオラン生れ、両親は仏人。
ジャック･デリダ；哲学者。アルジェリア生れ、ユダヤ系ピエノワール。(*)
アルベール･カミュ；アルジェリア生れ、父仏系、母スペイン系ピエノワール、アルジェの下層階級。
ジャン･レノ；男優。モロッコ生れ、両親はスペイン系。
イザベル･アジャーニ；女優。パリ生れ、父アルジェリアのベルベル人、母ドイツ人。
(*)ピエノワール pied noir「黒い足」；
1830〜1962の独立迄、仏領アルジェリアに居住したヨーロッパ系(仏,西,伊,マルタ島,ユダヤ人等)入植者をこう呼んだ。
5.混在する民族･文化･言語
・アラブ人(≒アラビア語を話す人々)；
7世紀末、マグレブ一帯を制し、先住民族ベルベル人をイスラーム化した。
・ベルベル人；
マグレブ地域とサハラ砂漠の原住民だが、民族は単一でなく多様。西サハラの遊牧民トゥアレグ人、アルジェリアの山間部カビリー地方に住むカビリー人もベルベルに含まれる。
「ベルベル」は、ここに侵入してきたアラブ人による蔑称。ギリシア語の「バルバロス」(野蛮人)を語源とする。
ベルベル人はアラブに追いやられて、マグレブの中でも山間部(マラケシュ,フェズ含む)に多く居住する事となった。
711年にイベリア半島に侵入し西ゴート王国を滅ぼしたのはウマイヤ朝イスラームだが、中を見ると、アラブ人は支配層で数は少なく、その下の大多数はベルベル人だった。
1086年に半島に侵入しカスティーリャを打倒したムラービト朝はベルベル人の王朝である。
1147年に取って代わったムワッヒド朝も同様。
ベルベル人の言語はベルベル語だが、3種類に分類され、共に文字を持たない。現在はアルファベットで書き表わしている。
・民族構成；
現在のマグレブの多数派はアラブ人。ベルベル人比率は、西程高く、モロッコ40%、アルジェリア20％、チュニジア2%。他にユダヤ人がいるが、イスラエル建国および中東戦争後は移動して少なくなった。
・歴史上影響；
マグレブに影響を与えてきたのは、フェニキア、古代ローマ、オスマン帝国、フランス、スペイン、イタリア。サハラ以南のアフリカの影響もある。
◆モロッコの主要都市
・マラケシュ
11世紀のベルベル人王朝(ムラービト朝,ムワッヒド朝)の首都。以後、フェスと首都の地位を争う。
マラケシュはベルベル語で「神の国」の意。
15世紀には再び首都になり、サハラ交易の中継都市として重要な町となった。
注目すべき場所や施設等；
旧市街はメディナと呼ばれる。
クトゥビアの塔、ジャマ･エル･フナ広場(「ジャマ」=広場)、バヒア宮殿(中庭構造、アラベスク模様)、ベン･ユーセフ･メデルサ(「メデルサ」=神学校)、スーク(市場、同業種の集合)、住宅地(細い路地と迷路構造、装飾のない外壁) 他
・フェス
9世紀初めイドリス2世が造った都市。13〜14世紀に繁栄。学問と宗教の中心。
カラウィーン(*)地区とアンダルス地区。
カラウィーン･モスク、ムーレイ･イドリス廟、2本のメインストリート。
(*)カラウィーン；現チュニジアのカラウィーンに由来する。
カラウィーン･モスクは北アフリカで初、最大の規模。イスラームの聖都の一つ。
モロッコの名物；
バブーシュ(スリッパ)、ミントティー、タジン鍋、クスクス、干したナツメヤシ。
アルガンツリーに登るヤギ。葉がヤギの好物。
アルガンオイル=アルガンツリーの種子から得られる植物油。モロッコの輸出品。
ヘナカラー=ヘナの葉を乾燥させ、白髪染め等の染料に用いる。
ジェラバ=女性の民族衣装。肌の露出を防ぐ。今はカラフルなものが多い。その中には何を着ていても分からない。
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