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2016年08月11日18:12

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読書日記Nо.937(短歌は、美しく織られた謎)

■北村薫「うた合わせ 北村薫の百人一首」2016年4月新潮社刊

ちょっと前の読書日記に、橋本治さんの小倉百人一首の解説本をとりあげた
ので、本書はかぶるかなと思って、うっちゃっていたのですが、気が向いて
読んでみたら、小倉百人一首とは、まったく異なる本でした。

百人一首といえば、小倉百人一首のことだと思ってしまうのですが、原義に
忠実に考えてみれば、百人の歌を一首ずつ取り上げて編んだものという意味
しかありません。

本書は、小倉百人一首を編んだ、藤原定家よろしく、平成の世に、北村薫が
選者となって、選んだ短歌のアンソロジーなんです。

なんで「うた合わせ」かといえば、そもそも小倉百人一首でも、ペアとなった
歌がひとつがいとして選歌されているもので、その例にならったもの。

でも、うたを合わせると、その響き合いは、いっそう深みをまします。

惹句を紹介しますね。

“短歌は、美しく織られた謎……言葉の糸をほぐして、隠された暗号を読み解く。”

“歌と歌を繋ぐ糸を見つけて、向かい合い、背を向け、また遠く離れてなお響き合う、
歌の奏でる音を聴く。”

“独自の審美眼で結び合わせた現代短歌五〇組一〇〇首。塚本邦雄+石川美南
から、三井ゆき+佐佐木幸綱まで、短歌総数五五〇首を収録。確かな読みで、
その魔力を味わい尽くす、前代未聞のスリリングで豊かな短歌随想。 ”

北村薫さんは、ミステリ作家なので、短歌が専門ではないが、若いころから
短歌に馴染んで、その造詣の深さに、驚愕しました。

最後に、歌人の藤原龍一郎さん、穂村弘さんと対談して、歌人とこの「うた合わせ」
の出来を確認していらっしゃいます。

その藤原さんの、本書の評価を引用しますね。

“この本は、普通の短歌の読み方を教える本ではなく、歌人向けでもない。短歌
だけでなく文学全般に興味がある人が、読者として想定されています。”

“こういう形で現代短歌を読み解いた本はなかった。それにとにかく楽しそうです。
小説を書くときより楽しんでいるみたい。文体そのものも喜びに満ちています。”

それでは、最後に、本書でとりあげたられた50組のうち、心に残った5組を紹介。

・金輪際会わぬと決めたる一人と夢打際で夜毎にまみゆ  道浦母都子
・夢に棲む女が夢で生みし子を見せに来たりぬ歯がはえたと言いて  吉川宏志

・サブマリン山田久志のあふぎみる球のゆくへも大阪の空  吉岡生夫
・三島死し深秋われは処女(おとめ)にて江夏豊に天命を見き  水原紫苑

・夕暮れのゼブラゾーンをビートルズみたいに歩くたったひとりで  木下龍也
・夕方は夕方用の地図がありキヨスクなどで売っております  天野慶

・丈高きポプラのがうがう鳴っている球場にただ踊る猫あり  梶原さい子
・かくこうのまねしてひとり行きたれば人は恐れてみちを避けたり  宮沢賢治

・父逝きてほうやれほうの我ながらなみだ流れて荒川に来つ  池田はるみ
・私が死んでしまえばわたくしの心の父はどうなるのだろう   山崎方代

短歌好き、文学好きの、私に宛てて書かれた本だと、錯覚するほど、堪能して
しまいました♪

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