なまめかしき女、柳がもとにたてるを
よぎる男の寄りて
春風の柳の枝をふるふとも
わが身にふれじ凪の黒髪
女、いとをかしとて返しけり
春空も雲にまぎれてつれなきに
雨ふらぬまに率てたまはなむ
さて男、女がため柳の御簾をよけたりて
二人いにければ
ほどなく雲ちりてはれにけり
【註釈】
なまめかし=優美、色っぽい
よぎる(過ぎる)=通りすがる
ふるふ(振るふ)=ふるわせる
をかし=風情のある
率(ゐ)て=連れて
つれなき=素知らぬ風で、冷淡
いに(去に)=去って
ほどなく=間もなく
《一首目の和歌》
春風が柳の枝をふるわせるように、男達が貴女の心をなびかせるのでしょうが、私のような者には、綺麗な黒髪をお持ちの貴女は興味を持ってくれないだろうなあ。
《二首目の和歌》
春空が雲に紛れていて冷たいように、人は私には素っ気ないので連れがおりませんから、雨が降る前に連れて行っていただきたい。
ログインしてコメントを確認・投稿する