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2014年10月15日03:21

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詩『浪人の夕べ』


先ほどの雨に路地がぬかるむ
浪人の草履は濡れ
足の裏が泥にまみれているが
風呂屋に入るのも煩わしく
道行く者どもをしかめっ面で遠ざけている

日も暮れかかる頃
障子戸に浮き出たひさごの文字につられ
桟に手をかけようとした時
敷居の手前の羽目板が割れ
溝に足を突っ込んでしまった
「ええい、おやじをとっちめてやる!」
と勢いよく戸を開ければ
なんとも深閑な様子
湯気は上がれど、と
鴨居をくぐらば
「へやっ!」
と右手奥より飛びかかる者あり
「何と」
と前に躍り出でて返り見れば
再びだんびら地を這い来る
浪人はらりと宙を舞い
すかさず刀の柄に手をかける
と見れば一瞬で刀は円を描き
曲者どさりと倒れるより先に
鞘に収まる
居合
「おい、おやじ!表の板、腐ってるじゃねぇか、こんちくしょう」
殺陣のやりとりを忘れたかのように
「あつ燗で頼むぞ」

「へ、へい、お待ちを」
長椅子に腰掛け刀を立てかける
「おう、冷えて来やがったなあ」
この浪人、殺陣は茶飯事であった



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