■狐思庵日乗(30)　「甦る」

●2014年07月29日 (火)　　未明

　▼「ああ、もうすぐ３時ですね」


　　「でも、ナラトさん・・。

　　　こんなこと、していて

　　　いいんでしょうか？」




　　「ええ、オレも仕事はないし、

　　　プー太郎みたいなもので、

　　　毎日が日曜日と言えば、日曜日ですが・・・」



　▼「いや、そうではないんです。

　　　オレが言いたいのは、

　　　いまごろ、多くの人は、

　　　あしたの仕事のために

　　　寝ている、ということです」



　　
　　「ナラトさんみたいに

　　　お気楽では、おれないのです・・」



　▼「ナラトさん、むかし、

　　　同じ職場のパートさんに、

　　　『この人、霞を食うて生きてるような人だから・・』って、

　　　ゆわれたですよね・・」



　　「それと、淡路のおじさんにも、

　　　『これは、カネがいらん、という男やから・・』

　　　と、言われましたよねー」



　　「でも、それって嘘でしょう！」





　　「霞を食って生きていけるはずもないし、

　　　カネは必要です。


　　　オレだって、ニワトリがいなければ、

　　　イナゴやバッタを食ったこと、ありますよ！」



　▼「いや、オレの言いたいことはですね、

　　　要するに、人は生きていくために

　　　働かなければならない、ちゅうことです」




　　「みんな、そうして生きている、ちゅう
　　　ことです」



　　「で、オレも、ナラトさんも、

　　　お気楽に、こうやって

　　　遊んでおる、ちゅうことです・・」




　▼「えっ、人生居候ですか・・・。


　　　たしかに、夢・幻と考えれば、

　　　人生は居候です。　しかし、


　　　そう、くくってしまうほど

　　　現実は、軽くないじゃないですか・・」



　　「とらわれるな、とゆうても

　　　とらわれるのが、現実、ちゅうもんじゃ

　　　ないですか・・・」



　▼「えっ、上野先生？

　　　知ってますよ。キッコーマンの研究所から

　　　京大の川口先生の紹介で来られた、検査センターのときの

　　　顧問の先生でしょう？」



　　「ああ、覚えてますよ」



　　「そう、ナラトさんが、水上勉『良寛』や、野末陳平『楽に生きる』を
　　　読んどったときやった、思い出しました・・」


　　「ああ、そのときも、こんな会話でしたか？　いや

　　　内容は、ちょっと違っていたと・・思います」




　▼「ええ、それは覚えてます。ナラトさんが

　　　あーぁ、早く楽になりたいなー、

　　　と、もらしたときですね」



　　「先生は、『そのうち、きみもなれるよ！』

　　　と、言われた・・。　覚えています・・」


　　「で、それが、今だ、ちゅうんですか？」



　▼「ちがう？　・・・

　　　そうではなくて、



　　　何気なく言われた言葉を

　　　ずっと覚えていて、

　　　それを、何十年かたって

　　　思い出す・・、

　　　そんな不思議のこと・・・？」


　　「ふう〜む・・」




　　「ああ、確かに、ありますねー。

　　　相手は、大して意味ない言葉を、普通に言ったのに

　　　その言葉が、忘れられているようで、あるとき

　　　ふと、甦るというようなことが・・・」



　　　★★★　　★★★　　★★★　　★★★　　★★★

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