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2014年03月14日06:50
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■「狐飛脚の話」 ��
●2014年03月14日 (金) 曇り
▼「狐飛脚の話」は、(一) のあと、(二) では、
出来るだけ今まで省みられずにあった事実から、入っていく
ようにするのは印象を深めるためである。
蜃気楼(しんきろう)という現象は、日本のような風土では
多いのが当り前であるが、伊勢の辛洲(からす)が古書に見え、
越中の魚津(うおず)が近年やや有名になった以外、案外に
他の土地には知られていない。
大きな蛤(はまぐり)の貝の中から、宮殿楼閣の姿を吐いて
いる所は折々絵にあるが、これは支那から輸入した考え方
かと思われ、民間にはこれを説く者があまり多くない。
(以下、略)
と続く。
「狐」を語るのに、「蛤(はまぐり)」から入る。
このように、奇をてらうのは「今まで省みられずにあった
事実から、入っていくようにするのは印象を深めるためである」。
なんとも、心憎い、文章である。
▼ほんとうは、このあと柳田國男がどう展開して、「狐飛脚」に
辿り着くか、それを見てみたいのであるが、それはここでは
省略する。
(文字に起こしてはないが、(一) から(六) までの頁は「画像」にした)
・http://
▼で私が、「狐の嫁入り」について、柳田國男『孤猿随筆』の中の
「狐飛脚の話」を思い出した事のほかに、もうひとつ別の「本」を
思い出していた、という事があった。
▼東京・世田谷区で生まれた(1950年・昭和25年生まれ)著者・内山節さんは
小学校にあがる前から、よく釣りにでかけ、近くでは多摩川あたりに行って
たらしい。
二十歳を過ぎた頃からは、自分で車を運転して山間地のヤマメやイワナを
釣りに行った。そして、北海道から九州まで、全国各地の山間地へ出かけ、
その土地土地で、泊まった宿の人や近所の人たちから「キツネにだまされた」
という話を耳にした。
著者も、いつしか、その土地での「人とキツネ」にまつわる話を尋ねる
ようになる。
「キツネにだまされる」といった類いの「話」は山のように当時は
あったが、昭和４５年(1965年)あたりを境として、急に、そんな「話」を
聞かないようになった、というところから「話」は始まる。
▼著者は、私より５歳も年下だから、「キツネのだまされた話」を聞く
きっと「ギリギリの世代」だと思う。
「昭和４５年(1965年)あたりを境として」と著者は書いているが、
そのとき内山さんは二十歳だ。
「二十歳を過ぎた頃からは、自分で車を運転して全国各地の山間地」へ
行き始めたようだが、そのとき、「昭和４５年(1965年)あたりを境として」
キツネにだまされる話は消えていくのであるから、おそらく、
「だまされた話」を多摩川近隣・あるいは「田舎」で聞いた経験がある
のだろう。
▼まあ、ともかく、「昭和４５年(1965年)あたりを境として、どこの地域に
行っても聞かなくなった」。
それで、「(著者は)なぜこの地域では１９６５年頃から、人がキツネにだまされ
なくなったのか、という質問をするようになった」。
本文にこう書かれている。
人々はこの質問を受けると、しばらく考え、いくつかの答えを出した。
もちろんその答えは、社会科学が得意とするような科学的論証性を
もったものではない。
「俺はこう思うんだ」というようなものである。
(中略)
私が知っているのは、かつて日本の人々はあたり前のようにキツネに
だまされながら暮らしていた、あるいはそういう暮らしが自然と人間の
関係の中にあったという山のような物語が存在し、その物語が１９６５年頃
を境にして発生しなくなるという事実は証明できても、その物語が事実か
どうかは証明不可能、あるいは論証という方法では到達できない事実と
して存在している。(同書、p.12)
▼なんだか、理化学研究所の小保方さんを思い出してしまいそうだ。
内山さんが、１９６５年以前には、全国各地で「キツネにだまされた話」を
自分では直接、もうすでに聞くことはできなかったが、各地の古老からは
「１９６５年頃までは、ワシ(古老)も聞いて追ったが、最近では、そんな
話をする者もおらんし、誰もそんな迷信じみたこと言わないようになった」
とか、
もっとはっきり、
「私は実際に、直接、キツネにだまされた話を村人からは聞くことは
なかったが、しかし、かつては存在したのは事実である」
と書けば、もっとすっきりするのに・・、と
私なんかは、つい思ってしまう。
▼私が「ギリギリの世代」というのは、このためである。
先日の「日記」で紹介した、大正十年一月八日生（七十三歳）の数山 勇さんが
話した「キツネの嫁入り」の「話」を掲載している、１９９５年の機関誌
「郷土をさぐる」は、だから貴重だと思う。
●機関誌 郷土をさぐる（第13号）
1995年6月25日印刷 1995年6月30日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会
・http://
数山さんは、「今から丁度六十年程前、私が小学校五年生の秋の事で
あります」と言っているから、１９９５年から６０年前というと、それは
１９３５年頃、昭和１０年前後の「話」である。
▼でも、この「本」で、彼はとてもすぐれた指摘をいくつもしている。
ついでに言うと、この「内山節」さんを、私はデビュー当時、その登場の
仕方の「野暮ったさ」(スマートでない、当時の潮流・雰囲気と異なるという
意味で)と、そして「正直さ」が印象に残って、よく覚えている。
内山 節『労働過程論ノート』 田畑書店 1976年9月25日 第1刷発行
いまも、独自性をもった、哲学をする人だと思う。
で、次は、この「本」に書かれた「キツネにだまされる」という事の意味、
それは、「歴史学」とどう関係するか、彼の考えを見てみたいと思う。
前に引用した、
和歌森太郎の「柳田國男の問題意識と関心は、常に歴史学と歴史教育に
あったこと」という証言とも関係してくる。
▼「狐飛脚の話」は、(一) のあと、(二) では、
出来るだけ今まで省みられずにあった事実から、入っていく
ようにするのは印象を深めるためである。
蜃気楼(しんきろう)という現象は、日本のような風土では
多いのが当り前であるが、伊勢の辛洲(からす)が古書に見え、
越中の魚津(うおず)が近年やや有名になった以外、案外に
他の土地には知られていない。
大きな蛤(はまぐり)の貝の中から、宮殿楼閣の姿を吐いて
いる所は折々絵にあるが、これは支那から輸入した考え方
かと思われ、民間にはこれを説く者があまり多くない。
(以下、略)
と続く。
「狐」を語るのに、「蛤(はまぐり)」から入る。
このように、奇をてらうのは「今まで省みられずにあった
事実から、入っていくようにするのは印象を深めるためである」。
なんとも、心憎い、文章である。
▼ほんとうは、このあと柳田國男がどう展開して、「狐飛脚」に
辿り着くか、それを見てみたいのであるが、それはここでは
省略する。
(文字に起こしてはないが、(一) から(六) までの頁は「画像」にした)
・http://
▼で私が、「狐の嫁入り」について、柳田國男『孤猿随筆』の中の
「狐飛脚の話」を思い出した事のほかに、もうひとつ別の「本」を
思い出していた、という事があった。
▼東京・世田谷区で生まれた(1950年・昭和25年生まれ)著者・内山節さんは
小学校にあがる前から、よく釣りにでかけ、近くでは多摩川あたりに行って
たらしい。
二十歳を過ぎた頃からは、自分で車を運転して山間地のヤマメやイワナを
釣りに行った。そして、北海道から九州まで、全国各地の山間地へ出かけ、
その土地土地で、泊まった宿の人や近所の人たちから「キツネにだまされた」
という話を耳にした。
著者も、いつしか、その土地での「人とキツネ」にまつわる話を尋ねる
ようになる。
「キツネにだまされる」といった類いの「話」は山のように当時は
あったが、昭和４５年(1965年)あたりを境として、急に、そんな「話」を
聞かないようになった、というところから「話」は始まる。
▼著者は、私より５歳も年下だから、「キツネのだまされた話」を聞く
きっと「ギリギリの世代」だと思う。
「昭和４５年(1965年)あたりを境として」と著者は書いているが、
そのとき内山さんは二十歳だ。
「二十歳を過ぎた頃からは、自分で車を運転して全国各地の山間地」へ
行き始めたようだが、そのとき、「昭和４５年(1965年)あたりを境として」
キツネにだまされる話は消えていくのであるから、おそらく、
「だまされた話」を多摩川近隣・あるいは「田舎」で聞いた経験がある
のだろう。
▼まあ、ともかく、「昭和４５年(1965年)あたりを境として、どこの地域に
行っても聞かなくなった」。
それで、「(著者は)なぜこの地域では１９６５年頃から、人がキツネにだまされ
なくなったのか、という質問をするようになった」。
本文にこう書かれている。
人々はこの質問を受けると、しばらく考え、いくつかの答えを出した。
もちろんその答えは、社会科学が得意とするような科学的論証性を
もったものではない。
「俺はこう思うんだ」というようなものである。
(中略)
私が知っているのは、かつて日本の人々はあたり前のようにキツネに
だまされながら暮らしていた、あるいはそういう暮らしが自然と人間の
関係の中にあったという山のような物語が存在し、その物語が１９６５年頃
を境にして発生しなくなるという事実は証明できても、その物語が事実か
どうかは証明不可能、あるいは論証という方法では到達できない事実と
して存在している。(同書、p.12)
▼なんだか、理化学研究所の小保方さんを思い出してしまいそうだ。
内山さんが、１９６５年以前には、全国各地で「キツネにだまされた話」を
自分では直接、もうすでに聞くことはできなかったが、各地の古老からは
「１９６５年頃までは、ワシ(古老)も聞いて追ったが、最近では、そんな
話をする者もおらんし、誰もそんな迷信じみたこと言わないようになった」
とか、
もっとはっきり、
「私は実際に、直接、キツネにだまされた話を村人からは聞くことは
なかったが、しかし、かつては存在したのは事実である」
と書けば、もっとすっきりするのに・・、と
私なんかは、つい思ってしまう。
▼私が「ギリギリの世代」というのは、このためである。
先日の「日記」で紹介した、大正十年一月八日生（七十三歳）の数山 勇さんが
話した「キツネの嫁入り」の「話」を掲載している、１９９５年の機関誌
「郷土をさぐる」は、だから貴重だと思う。
●機関誌 郷土をさぐる（第13号）
1995年6月25日印刷 1995年6月30日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会
・http://
数山さんは、「今から丁度六十年程前、私が小学校五年生の秋の事で
あります」と言っているから、１９９５年から６０年前というと、それは
１９３５年頃、昭和１０年前後の「話」である。
▼でも、この「本」で、彼はとてもすぐれた指摘をいくつもしている。
ついでに言うと、この「内山節」さんを、私はデビュー当時、その登場の
仕方の「野暮ったさ」(スマートでない、当時の潮流・雰囲気と異なるという
意味で)と、そして「正直さ」が印象に残って、よく覚えている。
内山 節『労働過程論ノート』 田畑書店 1976年9月25日 第1刷発行
いまも、独自性をもった、哲学をする人だと思う。
で、次は、この「本」に書かれた「キツネにだまされる」という事の意味、
それは、「歴史学」とどう関係するか、彼の考えを見てみたいと思う。
前に引用した、
和歌森太郎の「柳田國男の問題意識と関心は、常に歴史学と歴史教育に
あったこと」という証言とも関係してくる。
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