もはやポール・マッカートニーがベーシストだったということを忘れている人は少なくない。
今で言うところの「マルチ・プレイヤー」の走りみたいな人で、たしかにベースだけを黙々と演奏してるイメージは薄い。だけど、一流の音楽家であったポールは、紛れもなく一流のベーシストでもあったのだ!
ポールのスタイルの特徴をひとことで言えば、「メロディアス」ということになるだろうか(すいません、語彙に乏しくて)。はじめのころはモータウンR&Bにありがちなムーディーなスウィング・ベースに甘んじていたけれど、母体となるビートルズの進歩に伴い、次第に彼の個性も開花していく。
ベースという楽器は、本来和声で言うところのルート音をなぞってリズムの重心を支えるのが主な役割だが、彼はベースをまるでメロディ楽器のように扱う。もっとも、こういったプレイは今でこそ教本的に
コピーされまくった挙げ句、当たり前のスタイルのひとつになってしまっているが、少なくとも60年代のロックンロール復興期においては画期的な発明だったはず。そして、ポールというプレイヤーがベーシストである以前に優秀なソングライターだったことを踏まえると、自ずとそうなるに至った必然性も見えてくる、というもの。
ジョン・レノンがテープ操作によるエディット録音に凝り始めたころ、かたやジョージ・ハリスンがインド音楽に傾倒し始めたころ、ビートルズはその両者の特性がうまく溶け合った“レイン”というサイケなロックンロールを生み出した。作曲面ではジョンの貢献が大きい。だけど、主役は間違いなくポールとリンゴ。
したがって、ポールのベーシスト魂がよく分かるという意味で、今回はあえてこのリズム隊の二人に光を当てたい。しょっぱなからポールは動きまくっていて、ただならぬ存在感を見せつけている。どれだけ模倣されたか分からない必殺のベースライン。リンゴのフィルも凄まじい。巧いドラマーは星の数ほどいるが、リンゴのように叩けるドラマーはそうはいない。間違いなく彼のベスト・プレイのひとつに数えられるはず。二人が作り出す後半のブレイクは何度聴いてもカッコいい!
こんな凄い曲を、シングルB面曲に回してしまう恐るべきバンド。それがビートルズ。
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