●３月１９日(土) 続きの続き
■食品の放射能汚染データ （チェルノブイリのとき）
――『見直したい食の安全性』 細貝祐太郎・松本昌雄（編）から――
▼本書『見直したい食の安全性』は、いまから１８年前、１９９３年(平成５年)６月に
女子栄養大学出版部から発行された。
当時、私は食品衛生に関係する仕事に携わっていて、本書を読んだとき、
この「本」は、一般の人にもわかりやすく、しかも、ていねいに書かれていることに
感心した。
▼「一般の人」などと、エラそうな表現をしたが、私自身がその仕事につくまで、
「食品衛生」など全く知らない素人で、「一般の人」だったのである。
そんな「一般の人」の眼から見た「食品衛生」の『食の安全』について
本書は、やさしく、かつレベルを落とさずに書いている。
それで、いま、この「本」の１３９ページから１４３ページにかけて掲載されている
『第９章 放射能』のところを、以下、箇条書きに要約してみることにした。
▼ほとんど、本書そのままの抜書きである。
文意を変えない程度に、文章を読みやすく書き替えた個所もある。
福島第一原子力発電所の事故にともなう、食品汚染が問題になってきている。
この問題に対する、自分の理解を深めるために書き写した。
とくに、チェルノブイリ原発事故による食品汚染データについては、
煩瑣をいとわず本書収載のすべてのデータを転載した。
今後、おそらく発表されるであろう「福島原発事故による食品汚染データ」を
読むとき、参考になると考えたからだ。
▼また、「暫定規制値 ３７０ベクレル」が、どういう経緯で、また
どんな考え方のもとに設定されたか、それを知ることで、私たちの「安全性」に
対する考え方が、少し深められると思った。
無断の抜きがであるが、マイミクの方の参考になれば幸いである。
おっちょこちょいの私は、いつも誤字・脱字が多い。タイピングケ・ミスは
指摘してほしい。
また、記載内容におかしい点があれば、ご教示いただきたい。
私自身が、よく分かっていないのである。
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●『見直したい食の安全性』 細貝祐太郎・松本昌雄（編）
第９章 放射能
▼１９８６年４月２６日午前１時、旧ソ連・ウクライナ州の中部にある
「チェルノブイリ原子力発電所」で、第４号炉が突然爆発を起こした。
・最初の爆発の２秒後、２回目の爆発が起き、炉心と原子炉建造物が
破壊された。
・このとき、原子炉の中で生成した「放射性物質」は、爆発とともに
上空２０００メートルの大気中に放出された。
・事故の原因は、原子力発電の送電を止めても、どれくらいの時間、余力で
発電が可能か、その検査をしたことによる人為的なミスによるものであった。
▼事故で大気中に漏れた放射性物質は、北西や南西に流れた。
・ヨーロッパでは、フィンランドやスウェーデンの原子力発電所から放射能漏れが
あったのではないか、と大騒ぎになった。
・しかし、これはすぐに否定され、発生源は旧ソ連からであることが判明した。
▼各国は、この原発事故に重大な関心と危機感をもち、放射能の汚染分析を
はじめた。
・セシウムによる汚染は、ヨーロッパ全土に広がっていることがわかった。
・日本でも、５月３日ごろから、大気・雨水・飲料水から、通常以上の放射能が
検出され始めた。
・大気や食品や飲料水の放射能汚染が急速に進み、その健康被害が問題になりだした。
・１９５４年(昭和２９年)３月、ビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験による
「放射能マグロ」を思い起こさせた。
▼爆発で放出された放射性物質のうち、代表的なものは次のようであった。
「チェルノブイリ事故炉から大気に放出された放射性物質」
核種 半減期 放出量(％)
ヨウ素１３１ ８日 ２０
セシウム１３４ ２．１年 １０
セシウム１３７ ３０．１年 １３
ストロンチウム８９ ５２日 ４
ストロンチウム９０ ２８．８年 ４
セシウム１４４ ２８４日 ２．８
▼主なものは、ヨウ素１３１、セシウム１３４および１３７、ストロンチウム８９
および９０などであった。
・放射性物質には、最初の放射能濃度が半分になる時間、「半減期」がある。
・ヨウ素は約１週間であるのに対し、セシウム１３７は３０年と長い時間がかかる。
・食品中から放出されるガンマー線を測定すろことにより、その放射性物質の
種類と濃度を知ることができる。
▼一方、放射能を照射施設の中で食品に照射して、殺菌や発芽防止を目的に
放射線を利用することがある。
・この場合、食品照射では放射能を帯びることはないと考えられ、「放射能汚染」とは
区別している。
・食品の放射能汚染は、我々の人体に対する曝露のみならず、地球環境への汚染の
ことを考えると、非常に困ったことである。
▼厚生省(当時)は、同年１１月、輸入食品中のセシウム量（セシウム１３４と
１３７）から放出されるガンマー線の合計値を３７０ Bq/kg、つまり、
３７０ベクレル・パー・キログラム、１kgあたり３７０ベクレル 以下という
暫定基準値を設定した。
▼基準値は、次のような条件下で、計算し設定されている。
・事故後、放射能汚染した輸入食品の、セシウム１３４と１３７の含有割合を
１対２と推定する。
・日本人が喫食する１日の平均的な食品量はは約１．４kg、そのうち３５％が
放射能で汚染された輸入食品であると仮定する。
・また、汚染食品からの被曝量は、全被曝量の約６６％ぐらいと考え、これらの食品を
食べ続け、放射能が体内で平衡になったとき、年間被曝量である５００ミリレム、
(つまり５ミリシーベルト）の３分の１を限度と設定すれば、その計算値は
４２１ベクレルとなる。
・しかし、ヨーロッパおよびアメリカでの基準値が３７０ベクレルであることから
これと同じ、３７０ベクレルを日本の暫定基準値とした(ようである)。
▼厚生省は、当時、輸入食品中、汚染の心配のあったヨーロッパ諸国、特に
イタリア、フランス、ギリシャなどからの輸入食品について、重点的に検査するよう
通達を出した。
・事故直後から検査は行われており、３７０ベクレル/キログラムを超える
輸入食品が見つかった。
・これらは荷揚げすることが許可されず、輸出した相手国に戻されることも
度々あった。
・各検疫所で測定を行った結果、基準値を超えるものは、その一部を示すと
次のとおりである。
「３７０ベクレル/キログラム以上の値が検出された輸入食品」
食品 検査年 検出値(Bq/��)
セージ葉 ８７年 １,０００ 〜 ２,０００
セージ葉 ８８年 ３９７ 〜 ４１１
ハーブ茶 ８７年 ６７３ 〜 ８,７８０
ハーブ茶 ８８年 ３８５ 〜 ７７６
ハーブ茶 ９０年 ８１４ 〜 １,１６７
キノコ ８８年 ４４６ 〜 ７５５
キノコ ８９年 ５３２ 〜 ６５０
キノコ ９０年 ５５０
▼また、市場に流通している輸入食品についても検査が行われた。
・輸入食品の輸入相手国はヨーロッパ諸国、アジア、アメリカ諸国で、
厚生省は、１９８７年(昭和６２年)１０月３日付で、『５１ベクレル/キログラム
以上を実測値として明記する旨』の連絡を出したところから、５０ベクレル/
キログラムは以下は「検出せず」(検出限界以下)とした。
・その検査結果をまとめると、次のようになる。
「食品群別・検出数と検出率」
食品群 試料数 検出数 検出率(％)
穀類 ２０７ ０ ０
香辛料・ハーブ １７７ ２０ １１．３
野菜・果実 １６６ ３ １．８
乳・乳製品 １７７ ３ ２．６
酒類 ７４ ０ ０
菓子類 ７４ ０ ０
ジャム ５５ ２ ３．６
魚介・加工品 ５５ ０ ０
ナッツ類 ５４ ２ ３．７
はちみつ ４８ ２ ４．２
油脂類 ２８ ０ ０
調味料 ２０ ０ ０
その他 ５４ ０ ０
――――――――――――――――――――――――――――――
計 １,２５９ ３２ ２．５
▼高率で検出したのは、ハーブ類の２０試料（検出率１１．３％）、で、
植物類は放射能を蓄積する割合が高いようである。
・また、これを検出率の高い順に並べると、香辛料・ハーブ以下、はちみつ、ナッツ類、
ジャム、食肉およびその製品の順となる。
▼次に、香辛料・ハーブ検査の結果を、放射能の検出レベル別に見てみると、
次のようになる。
「放射能検出レベル状況」
検出範囲（Bq/�圈法 〇醂楚堯 仝―侘�(％)
０ 〜 ５０ １２２７ ９７．５
５１ 〜 １００ １８ １．４３
１０１ 〜 ２００ １２ ０．９５
２０１ 〜 ３００ １ ０．０８
３０１ 〜 １ ０．０８
▼これによると、検査した食品のうち、０〜５０ベクレル/キログラムの範囲が
１２２７試料で、全体の９７．５％を締めている。
・５１〜２００ベクレル/キログラム検出したのが合計で３０試料、
２０１ベクレル/キログラム以上は２試料で、最高は３８０ベクレル/キログラムで
あった。
▼１００ベクレル/キログラム以上を検出した食品名と、その検出値、ならびに
製造あるいは輸入年月日を示すと、次のようになる。
「輸入食品の検出濃度順状況」
食品名 検出値(Bq/��) 輸入年月
トナカイ肉 ３８０ ８７年２月
ローレル ２１３ ８８年５月
トナカイ肉 １９０ 不明
干しキノコ １８５ 不明
セージ １８４ 不明
はちみつ(栗の花) １８２ ８８年５月
リンデン １７８ ９０年４月
セージ １７３ 不明
セージ １５６ ８９年４月
ローレル １４５ 不明
ローレル １２０ 不明
セージ １１６ ８９年８月
セージ １０６ ８９年８月
セージ １０１ ８９年11月
・１９８９年に測定したトナカイ肉は、３８０ベクレル/キログラムと
暫定基準値をわずかながら超えた。
・しかし、１９８７年２月に輸入されているので、これはチェルノブイリ原発事故以前の
放射能汚染が原因と思われる。
・その他、ローレル、セージなどが１００ベクレル/キログラム以上であることが
判明した。
▼ところで、人の体内に入る放射能は、原発事故による放射性物質からだけではない。
・放射能汚染のない食品からも、たとえばカリウムのように、わずかながら
放射性物質を摂取している。
・カリウムはどの食品にも含まれており、生物にとって大切な元素のひとつである。
・カリウム量の約１１％は放射性のあるカリウムを含んでいる。
・日本人はカリウムから１日約５０ベクレルを体内に取り込んでいる。
・通常の成人の体内放射能は、４０００〜５０００ベクレルとの報告があり、
成人の体内被曝量はほとんどが食品中に含まれてるカリウムに由来するものと
考えられる。
・残念ながら、食品を調理しても放射性のカリウムだけを除去するということは
不可能である。
・また、飛行機に１回搭乗すれば、セシウム１３７を、３８００ベクレル相当量の
食品を食べたときの内部被曝線量に相当する。
・胸部レントゲン写真による被曝は、約５０ベクレルの食品を３００グラム食べたときの
被曝量の約１０００倍に相当している報告されている。
▼（この「本」の出版当時）新聞報道によると、チェルノブイリ地域の子供たちに、
甲状腺がんが多発していると発表され、チェルノブイリ原発事故との因果関係が
問題になっている。
・現代社会では、その多くを電力エネルギーに頼っている。
・水力、火力、その他自然の力だけで電力需要をまかなうには、あまりにも多くの
電力消費を行っている。
・そうなれば、原子力発電の電力に頼らなければならない状況を生むことになる。
・したがって、それだけに、原子力発電所の安全面における施設管理が何よりも
求められている。
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