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2009年12月06日00:39

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野口ひろみ著『ローブ・ア・ラ・フランセーズにおける背襞の魅力〜復元的制作を通して〜』

先月11/23の高校同窓会の折り、1年の時同クラスになった事もある野口ひろみさんと(当時はOさん)会話する機会があり、彼女の著書を頂いた。
今は山脇学園短期大学で服飾美学の教授をしておられる。
著書といっても、出版社からの発刊物ではなく、学内の印刷物と理解すればいいか。

私は服飾の事は全く知らない。したがって服飾にも美学があろう等予想もしなかった。
大変専門的な領域なので、中身を説明するのも難しい。
しかし、”ローブ・ア・ラ・フランセーズ”や”ワトー・プリーツ(ワトー襞)”、”ローブ・ヴォラント”等という単語で類推できる方なら、ど素人である私のたどたどしい文章でも、きっと理解して下さる事だろう。

「はじめに」にこうある・・・
ロープ・ア・ラ・フランセーズは、パニエで左右に膨らませたスカートと背にたたまれた襞(いわゆるワトー襞)を形態上の特徴とし、華やかな装飾を持つ十八世紀の宮廷服である。前から見ると、細い胴とパニエで張らせたスカートの対比が印象的であるが、その背面には、前から見えないほど小さく背襞がたたまれている。
・・・

いわゆるロココ時代の宮廷貴女の服装で、大変雅なスタイルのもの。
ロココの画家ジャン・アントワーヌ・ワトーがよく描いた宮廷女性達が着ていた為、彼の名をとってその特徴ある背中の襞を”ワトー襞”と呼んだ由。

実証の為、当時の歴史的資料から型紙をとり、試作を行ってみると、驚く事に、現代の普通の日本人には着れなかった。
何処が着れないかというと、問題は、細い胴回りではなく、背幅(18cmしかない)にあった。想像される同じ程度の背丈の人でも、両肩が入らないのだそうだ。
まるで「袖が後ろについているような構成で」、「腕を後ろにして肩甲骨を寄せるようにしなくてはならない。(中略)殆ど腕を上げることができず、後ろから固められたようで、この姿勢で長時間着用していることは困難」だった、と書かれている。

体型の違い等という雑な次元に留めるのでなく、この謎を実証的に解く為、ロココ絵画を観察し、教育関係の書物を読み、当時の生活スタイルや美的感性、また教育や身嗜みに到る迄を調べた。
この具体的な課程は、専門学術の著書であるにも関わらず、ミステリー小説を読むようにわくわくさせられた。

当時は宮廷で踊るという事は、貴人にとって極めて重要な嗜みであった。それは貴婦人の素養であり、いろんな場での美しい姿勢のあり方に繋がり、”小さな背”というのが美的センスの類型ともなった。美しいシルエットのローブを最も美しく着こなす為の基本に繋がった。
例えばバレリーナの肩と腕の所作を想像してみるといい。白鳥が、首は上から引っ張られているかのように真っ直ぐ立てながら、肩甲骨を寄せ、腕を後ろに羽ばたかせるような仕草をする。肩からは力が全く抜けている。
偶々彼女の娘さんがダンスを学んでおり、着用者として試したところ、何と背幅18cmのローブにすっぽりと入ったのである。

こうした類推と実証の繰り返しの課程が、美学の世界でも極めて重要である事がこの著書から知られ、私には驚きであったし、感動もした。

「おわりに」の彼女の文章には、この発見に到る知的歓びも溢れていて、これこそ学問する事の歓びだと、私は何とはなしの嬉しさを噛み締めながら、掌書の扉を閉じたのだった。
 
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