■用・不用（2）
●このあと、茅辺かのうは網走の水産加工場で働くことになる。
第一章 水産加工場
――浜辺の町――
１．発端、引越し
２．網走に着いて
３．仕事をさがす
４．仕事がみつかった
５．水産加工場
６．出面の主婦たち
７．単調な労働
８．仕事着と機械
９．加工場に馴れてから
１０．お喋りと親切
１１．原料魚の行方
１２．加工場の仕事あれこれ
１３．アキアジ
１４．漁期の終わり近く
１５．「労働」から（�機�
１６．「労働」から（�供�
１７．「くらし」そのものも労働である
（茅辺かのう「階級を選びなおす」/文藝春秋）
●雑誌「思想の科学」に連載された「階級を選びなおす」は
１９７０年４月、同名の単行本となって文藝春秋から刊行された。
私の手元には「思想の科学」はない。昨日の引用は、文藝春秋版の
第一章「水産加工場」「１．発端、引越し」からである。
茅辺の報告は、
第二章 農業労務者
――平野の家――
第三章 観光地
――山林地帯の集落――
と続く。
●この報告に書かれているのは、「思想の科学」に掲載された年の
６年前、１９６２年初夏から始まり、１９６７年秋までの、
茅辺自身の生活についてである。発表を目的に書かれたものでは
ない。
引用部分にも書いてあったとおり、それ以前の人間関係や
つきあい、それらを生活の上で絶ったところから出発する
そのことについて書いたものである。
●私は「捨てる」ということばを聞くと、茅辺のこの文章を思い出す。
単に生活の諸々の道具や日用品を捨てるだけでなく、これまでの
生活そのものを捨てることについて書かれているからだ。
それは、まるで理科の実験レポートのように、普段、私たちの
生活に纏わり着く意識もはがして、日常生活の素地をあらわに
してくれる。
労働論であり、くらし生活論であり、生活意識論でもあった。
なんにも、むずかしいことばで書かれていない。
くらしのことばで書かれていた。
●「簡単な生活」に私はいつも憧れる。
それは、人生がやり直せるような気になるからだ。
そのためには、まず「捨てる」ことから始めなければならない。
生活をあらためるためには、捨てなければならない。
日記や写真、思い出の品々を燃やしながら、
頭の中で無いと思うことと、
目の前で炎をあげて灰になるのを
みることの間には大きな断絶があります
と茅辺が書いていたように
観念的な過去との断絶や、ことばの上での変革は
生活の形を変えなくても
いつでも出来る
しかし、生活そのもの、意識そのものを変革するには
まず、過去の生活、意識にまとわりつく「物」を捨てなければならない。
●４０年近く前に、私はそう思った。
退職を前にして、また「捨てる」ことを思っている。
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