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2008年12月21日19:13

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●うみうし独語(292)/■残日

■残日

 ●カレンダーを見ると、ことしも残り10日で
  その出勤日と休日が相半ばするようになった。

  落語にも「年の瀬」を扱った話がいくつがあったように思うが
  「師走」とか、「年越し」の風情や情感には、庶民の暮らしへの
  思いの反映があって、何か切なく、ほろ苦いものが浮かんでくる。

  しかし、そんな思いを目の前の光景から
  感じることは、近年ますますなくなってきた。

  とくに今年は、100年に一度の大不況・大恐慌で、
  越年の大変さだけが切実に感じられる。



 ●三、四日前のこと、夜更けてコーヒーを淹れようと台所にいくと
  電気ポットの横に、大振りのゴキブリがいた。

  そっと、何か叩くものがないかと、探したが何もない。
  木製の茶敷きみたいなものがあったので、それをもって
  そばに近づいた。

  ゴキブリはまだ、そこにいた。
  茶敷きを五本の指でつかんで、ゆっくり振り上げ
  ゴキブリめがけて、えぃッと打ち叩いた。


  紙であれば、仕留めたか否か、その成否は感触でわかる。
  しかし、テーブルと茶敷きの、木と木がぶつかる音が一瞬しただけで
  もしかすると、逃げられたかもしれないと思った。


  静かに、そろそろと、打ち据えた茶敷きをもちあげた。
  下に、つぶれたゴキブリがいた。茶敷きの裏にゴキブリの白い
  体液か内臓のようなものが付着していた。



 ●ただ、それだけのことだったのだが、
  となりの部屋で「数独」をやっていた妻に、自慢げに
  大きなゴキブリを一発で、しかも木製の茶敷きで仕留めたことを
  報告したら、大した感慨もなく、

  「へぇー、そう。あんたにしたら珍しいわねー」

  と言われた。


  そして、考えてみた。

  で、わかったのだが、ゴキブリは電気ポットのそばで暖をとっていたのだ。
  逃げもせず、動きも鈍く、使い勝手の悪い木製の茶敷きなんぞで
  叩かれて死んだゴキブリ。

  「お前なんかに、私が叩けるものか!」

  死んだゴキブリが、そう言っているように思えた。


  
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