寝はぐれた深夜薄闇蹴飛ばして 目覚まし時計チリンと泣いた 街路樹が髪乱されて為すがまま 台風の威を借る狐風 光る雲傍の空青くして セーラー服に転がれる笑み 聳え立つ筋肉質の工場は 秋をむかえて霞が晴れる
水に命が遊んでいた游ぐだけの遊びに飽きて時間の水際で自分がこれからどうなるのかを考えた消えた消えたように見えた水が覚えていた命が生まれた游いで遊んだ誰かが考えたことを考えた消えた生まれた幾つも生まれた幾つも考えた幾つも消えながら生まれた一緒
「風病(ふうびゃう≒風邪)」潮騒の我が身包むは玄海の高熱の夜に覚ゆる幻 咳き込みて労わるが如く吸い込みてまた咳き込みて息継ぎ浅し 風病の枕に流るる泪とてうつろふ時に跡形も無し
ウイルスに挑み、破れ散っていく抗体が、何かのフィナーレを暗示するかのように、小さな高い音を立てながら舞っている。ポッカリ開いた砂漠への入口は熱風を吹き出してやめない。眉間のシワの住人は、全身を伏せてただ祈り続けるばかり。
水中は冷たくて君は青く笑み塞がる耳にカチリと固い雨なのかテレビ抑えて聴こえるか心音なのか雫したたるウィルスに攻撃かける微振動朦朧の耳 届く熱情夕焼けに際立つ青さ草笛の打っ切ら棒に膨よかな頬(短歌点出品作)
始まりは路傍の花の清しさに 馴れぬ小道もはずむ春の日叢に蝶よろよろと見凝らせば 複眼に満ちる青い大空キラキラと鱗粉の翅匂い立ち いまかいまかと息を止め振りおとす昨日の明日は今日の日に 舞い上がるふわり旅立てる空