凍てついた死体と古ぼけたペーパーバッグだけが転がっていたコンクリートのままの床の上で音楽が流れている、奇妙なインストルメンタルで旋律らしい旋律もそこには見当たらない…インプロビゼーション的なそれはだけど、最後の冬を呼び戻した二月の終わりには
先日原因不明の脚の痛みに襲われた俺であるが、それは始まった時と同じように急に消えた。ああ、よかったと一息ついたのもつかの間、その日のうちに腕に痒いブツブツが出現し、出たときほど痒くはないがいまも腕は赤くなっている。スマホのカメラが良いせいで
あたしいつかあの男を殺すからね、と、いつものようにカウンターの外側でカクテルを何杯も飲み干し、口が軽くなったネシナ・エミリーはお決まりのその言葉を吐き捨てるように言うのだった、もしも近くで警察官が飲んでいたとしたらこっそり耳をそばだてるので
小さな金属の塊がふたついびつなフロアーを転がってぶつかった時のような音が脳髄のどこか奥深いところで何度か聞こえた、その感触は絶対に忘れてはいけないなにかをしまいこんだ鍵付きの抽斗の鍵が壊れてしまってしばらく経ったあとでそれに関するなにもかも
僕と良子の関係は、卒業するまでずっとそんな感じだった。考えてみれば、そんなふうに日常的に遊んでいた相手は、良子しかいなかった気がする。他に楽しく話せる人間が居なかったわけじゃない。同性にも異性にも、そういう相手は何人かいた。だけど不思議と、
故郷をひとまず離れて僕が通っていた大学は、どちらかといえばお金持ちのご子息や令嬢の多いところで、しがない町工場の一人息子である僕みたいなのは、そりゃあまったくいないということはなかったけれど、冬場のごきぶりぐらいの確率でしかお目にかかること