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2023年09月30日18:42

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本棚586『徳川家康 弱者の戦略』磯田道史(文春新書)

 今の大河ドラマ『どうする家康』では、心優しく、時に弱さも見せる家康像が新鮮だった。狡猾な「狸親父」という評価は、江戸幕府を否定する明治維新後になされたものとは聞いていたが、本当の実像を知りたくて本書を手に取った。

 表題の通り、本書は家康の「弱さ」に着目し、三河の弱小大名であった家康がなぜ天下を取り、長期の政権を築けたのかというテーマを掘り下げる。
 強敵武田との死闘の中で自身の強さが磨かれていった「共進化」や、大国に挟まれ弱さを自覚した上での外交力といった様々な要因、戦略が示される。中でも、大岡事件という抜擢人事の失敗を機に、能力に力点を置いた人材の「多様性」よりも、先祖代々の譜代の家臣、「同質性」を重視するようになった家康の慎重な組織論が興味深かった。それが明治維新後も、藩閥主義、学閥主義と形を変えて受け継がれてきたという指摘は、江戸・東京を中心とする国家構造という外形的な要素だけでなく、現在まで続く日本社会の内面的な要素も家康が形作ったように思われ、歴史の妙を感じた。

 また、ドラマでは、これまで悪女とされてきた築山殿を慈愛に満ちた女性として描いていたが、家康が今川から織田に同盟を切り替えた際、息子とともに今川の人質だった築山殿の家康に対する恨みは極めて大きかったという著者の指摘を読むと、やはりドラマの人物像はフィクションであるように思える。しかし、たとえ史実とは異なっていたとしても、過酷で厳しい現実と離れた、こうあってほしいという理想の姿は、確かに観る者の心を打つ。
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