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2023年11月27日13:00

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本棚600『料理沖縄物語』古波蔵保好(講談社文庫)

 季節毎の沖縄の多様な料理にまつわる想い出も面白いが、著者の数奇な人生にも興味をひかれた。明治の終わり頃の沖縄で生まれた著者は、進学で上京し新聞記者になり、その後戦争により沖縄には帰れなくなる。戦後、米軍施政下にある沖縄へ行く物資運搬船に乗り込み密航取材をするも、それが判明し、十四年間にわたって米軍は著者が沖縄に立ち入ることを禁止した。禁止が解けて久方ぶりに郷里に戻った著者が、那覇の市場で月桃の葉でくるまれた「天妃の前饅頭」に出会う話は、変わり果てた街にあって、子どもの頃の記憶を一瞬で喚起する味の記憶の強靱さを感じた。

 著者が生まれたのは下級士族の家が多い首里の金城であったが、保守的でおとなしい首里と、その対極の那覇という対比が興味深い。かつて琉球王国の栄華を支えた自負のもと、貧しさも「清貧」と捉えるカラリとした強さがある。

 また、先日読んだ外間守善氏の『沖縄の食文化』と同様に、南国的なおおらかな文章の中に、戦争の悲しみが時折垣間見える。昭和十九年十月十日の大空襲の後、著者の叔母は幼い二人の息子をかかえて北部の国頭へと避難する。何日も田の水だけを飲む日が続き意識を失いかけたところ、同じく那覇から避難していた人が口に入れてくれたひとカケラの黒砂糖によって蘇ったという。 このほかにも、語り継がれなかった戦争を巡る切ない食の記憶は無数に存在するだろう。そして、それは現在のパレスチナのように今もなお増え続けている。
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