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2023年10月24日23:48

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本棚592『イスラエルを知るための62章』立山良司編著(明石書店)

 表紙に置かれた、お洒落なバーで乾杯をする若い女性達の写真の和やかさと、今この地で起こっている凄惨な出来事とのギャップを感じた。

 1948年の建国当時、人口65万人のイスラエルは、装備も充分にない中、3100万人の近隣アラブ六カ国と第一次中東戦争を戦うことになった。強力なアラブ諸国に囲まれた小さな国は、「アラブの大海に浮かぶ孤島」と呼ばれ、「巨人ゴリアテに立ち向かう少年ダビデ」のようだったが、アメリカの支援により今や世界第八位の強大な軍事力を持つ。
 その結果、「世界最大の刑務所」と言われるガザ地区で今起こっていることは、自衛権の発動であるのか、過剰な軍事力の行使になっていないのか、考えさせられてしまう。もちろんテロ行為は許されないことであるものの、その何倍、何十倍もの報復を行い、無辜の市民の命を奪うことは、抑止にはならず、世代を超えて憎しみの連鎖を増幅させることにならないか懸念される。

 近くを見ればハマスによるテロ行為が発端だが、元をたどれば、連綿と暮らしていたパレスチナ・アラブ人を追い出したことに起因するし、さらには第一次世界大戦中、ユダヤ、アラブ、フランスそれぞれに良い顔をして相矛盾する約束をしたイギリスの「三枚舌外交」に根源はある。近視眼的になるのではなく、過去を真摯に見つめ、対立する相手の思いを少しでも理解しようとすること、お互いが話し合える地平を探ることが、迂遠なようで、最も解決に近い方法のように思える。

 本書はパレスチナや中東諸国との関係、政治、外交、安全保障に多くのページが割かれているものの、歴史や文化などにも触れられていて、イスラエルという「一瞬も退屈のない国」の全体像を掴むことができる。

 文化の章で印象的だったのは、2009年のエルサレム賞の授賞式で村上春樹が行ったスピーチだ。イスラエル軍によるガザ地区へのロケット攻撃で多くのパレスチナ人が亡くなっていた時、イスラエルの人びとの集まる中で、このような発言を行う勇気と、言葉の持つ力が感じられた。パレスチナのみに肩入れするのではなく、誰もがかけがけのない、壊れやすい卵であること、その尊厳を守ることの大切さというメッセージは普遍的である。

「もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。···こう考えてみてください。我々はみんな多かれ少なかれ、それぞれに一つの卵なのだと。かけがえのない一つの魂と、それをくるむ脆い殻をもった卵なのだと。私もそうだし、あなた方もそうです。そして···それぞれにとっての硬い大きな壁に直面しているのです。」
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