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2023年08月28日21:11

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本棚577『昭和・戦争・失敗の本質』半藤一利(新講社)

 先日、北の丸公園の隣りにある昭和館で催された半藤一利展に行った。靖国神社と九段会館(旧称軍人会館)の間に位置するからか、どこか先入観があったが、昭和館は戦中戦後の「国民」の生活の労苦を伝えていくことに力点が置かれていた。『この世界の片隅に』で戦時下の広島の人びとの日常を描いたこうの史代さんのイラストも展示されていた。

 東京大空襲で火の海になった街を逃げ回った著者も、常に「国民」の側に立ち、戦争を遂行した為政者の考え、判断を問い続けてきた。本書でも、平和を望み、軍部に警告をする天皇の想いに関わらず、戦いへの道を転がり落ちていく大日本帝国の内幕をつぶさに描いている。
 歴史にイフはないけれど、本書を読んで抱いたのは、数多くの分岐点の中で、この時もっとこうしていたらという思いと、こうならなくて良かったという思いである。例えば、終戦間際、ソビエトからアメリカに対して、北海道の北半分を領有したいという提案があった話など、留萌と釧路を結ぶ具体的な境界が示されていたというのは初耳であり、今当然のように見えている世界も偶然の産物のように思えて空恐ろしくなった。

 昭和館では、焼け跡で質素な食事をとる家族のもとに戦地から復員した兵士が戻ってきた時の家族の驚きの一瞬を描いたこうの史代さんのイラストが印象的だった。こうした普通の人びとの普通の幸せを奪う戦争を非難し、戦争が起こる構造を探り続けることは、著者の生涯をかけた仕事であった。
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