macchaさんにお借りした2種類の『ルチア』(DVD)を観ました。
私、実は『ルチア』、初めてです。
作曲 カエターノ・ドニゼッティ(伊1797-1848)
原作 ウォルター・スコット(英) 「ランマムーアの花嫁」(伊語発音ではランメルモール)
台本 サルヴァトーレ・カンマラーノ/伊語
初演 1835年
拝借したのは以下の2枚。
(1)
演出 ブルーノ・ノフリ
指揮 ブルーノ・バルトレッティ
演奏 NHK交響楽団
出演
ルチア:レナータ・スコット(sp)
エドガルド:カルロ・ベルゴンツィ(tn)
エンリコ:マリオ・ザナーシ(br)
ライモンド:ブリニオ・クラバッシ(bs)
1967年東京文化会館ライブ
(2)
演出 ヴィンチェンツォ・グリゾストミ・トラヴァリーニ
指揮 ステファノ・ランザーニ
演奏 東京フィルハーモニー交響楽団
出演
ルチア:マリエラ・デヴィーア(sp)
エドガルド:マルセロ・アルバレス(tn)
エンリコ:レナート・ブルゾン(br)
ライモンド:カルロ・コロンバーラ(bs)
2004年新国立劇場ライブ
ドニゼッティはベッリーニと並びベルカントオペラの双璧と言われています。
ベルカントとは美しい歌とか歌唱とかの意。劇的表現よりも、無理のない自然な美しい声で旋律を滑らかに歌う事を主眼とするオペラ。旋律重視。
『ルチア』にも溜息の出る美しい旋律が実に多い。ここぞ訴えたいというところは、テンポもゆっくりめとし、切々と歌い込みます。
またプリマドンナオペラという言い方もあります。
プリマドンナは言う迄もなくオペラの主役女性。この歌唱がオペラの重点を占める作品を言います。
例えば『ルチア』の狂乱の場(2部2幕2場)は、その美しい歌唱、圧倒的な技巧と劇的表現(ベルカントオペラの定義と矛盾するようですが)で、まさにプリマドンナオペラを指すに足ります。23分間、狂えるルチアは昏迷の心理を歌い続け、そして遂に息絶えます。
あらすじは以下の通り。
17世紀のスコットランド。ランメルモールの領主エンリコは妹ルチアをアルトゥーロと政略結婚させようとしている。ルチアが同家の宿敵エドガルドを愛していることを知ったエンリコは、エドガルドの裏切りを示す偽の手紙をルチアに見せ、アルトゥーロとの結婚を承諾させる。結婚の場に乗り込んだエドガルドは、真相を知らず、彼女の心変わりを責める。裏切りをなじられたルチアの心は衝撃によって狂気に陥り、その晩、花婿を刺し殺してしまう。放心状態のまま祝宴に現れたルチアは、錯乱する意識の中で、エドガルドへの愛を必死に訴え、息絶える。エドガルドもルチアの死を知り、自ら短剣で胸を刺し後を追う。
1669年実際に起こった事実に基づいて作られたとの事です。
さて、(1)も(2)も日本でのライブです。オケも合唱も日本。演出、指揮、主役級は全てイタリアン。唯一、(2)のエドガルドを演じたアルバレスだけがアルゼンチン生まれと異色です。
それにしても、1967年と2004年の37年の差は大きい。方やモノクロ,モノラル、方やハイヴィジョン,ドルビー･ディジタル、という技術面だけでなく、演出も歌手も随分違います。
前者はいかにも大時代の演出で、舞台上のソリストは、アリアともなれば、真正面を向き身振り手振りは一本調子でただ大きく、横の関係(登場人物同士の人間関係)も断ち切れてしまいます。
声はどちらがいいかというレベルではありません。ルチアのスコットの声は、輪郭がはっきりし音階も明確です。同じデヴィーアの声は包容力がありまろやかです。どちらも、世に擦れぬ乙女役としてはお歳を召していますが、スコットは少々太り過ぎ。ルチアは舞台に倒れ込む場が幾度かありますが、○○がドスンという感じ。現代人の目からするとドラマティスムとしては少し興醒めですが、こういう側面は無視するというのが、往時のルールではありました。
デヴィーアの白いケープの裳裾の長さは凄いですねえ。急で長い階段を下りてくるくるルチアのこれから始まる狂乱の場をイメージするに足ります。そしてその裾先の方はアルトゥーロの血に染まっています。
ソリストのカリスマ性は別として、演出/演技という側面では、オペラはまだ進化しているようです。
エンリコ役のブルゾン、嫌われ役ですが、17世紀の古い貴族の偏った体質をよく表わしていました。この人、6月に観たマスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』でアルフィオをやっていました。主役のドミンゴと決闘する、これも嫌われ役。人気は取れないでしょうけれども、いいバリトンです。
それにしても、先月初めて触れたベッリーニの『ノルマ』、そしてこの『ルチア』と、言葉の定義ではよく理解し切れなかったベルカントオペラに、我が体も反応しました。まだ枯れてはいない、・・・のかな？(失笑)
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