mixiユーザー(id:1040600)

2006年08月07日04:04

101 view

●ニセ管理人日記(12)/■ラクダは砂漠へ (2)

■ラクダは砂漠へ (2)

 ●もし、もし。
  きつねくまぞうです。

  もう夜もだいぶ更け、
  ワタシの時間がやってきました。

  ワタシは夜、散歩するのが大好きです。

  ひと寝静まった真夜中、
  月の光を浴びながら
  ところどころで輝く外灯の下を歩き、
  団地の中の公園などを散策して、
  ひとり思索にふけるのが好きです。



  さて、ナラトさんは、
  きょう 日が昇ると、
  面接試験があります。

  いまは、どんな夢を見ているのか
  ワタシは知りませんが、
  大きな口を開けて
  眠っています。



  どこをどう見ても、
  ナラトさんの口には
  もう、一本のキバのかけらも
  見当たりません。



  でも、ワタシは思うのです。
  きっとナラトさんも、
  もとは<キツネ>ではなかったかと・・。


  こうして、安心しきって寝ているときも
  もうナラトさんは、
  ふさふさのシッポを出すことも
  とんがった耳がピョンと立つことも
  決してありません。



  本人自身が
  人間になる前に、
  自分が何であったか
  もう、忘れているようです。


  <タヌキ>でなく、
  <ムジナ>でなく、
  <イタチ>でもなく、

  ナラトさんは、きっと
  ワタシと同じ<キツネ>であったと

  確信するのは、

  いまはこうして、
  すっかり人間になりきっても

  ワタシとナラトさんが、
  心の中で引き合うものがあるからです。




 ●さて、ナラトさんのことは
  ほっといて
  前回の話の続きをします。


  少しずつ砂場に近づいていたラクダに
  思いもよらぬことが起きた、というところまでお話しした
  と思います。

  きょうは、その続きです。





 ●「ラクダは砂漠へ」 (2)

  その日は日曜日で、ぼくは昼ごろ、用事があって
  公園のそばを通りかかりました。

  すると、公園の中に、女の人が三人いて、こんなことを
  話していたのです。



  「ねえ、このラクダ、たしかベンチの脇にあったはずじゃない?」

  「あら、そう言えばそうねえ。ちっとも気づかなかったわ。
   いったい誰がこんなところへ持ってきたのかしら」

  「きっと、酔っ払いが大勢でいたずらしたのよ」

  「やあねえ。こんなところにあったら、こどもたちの
   遊びのじゃまになるわ。もとのところに、もどさなくちゃ」

  「でも、こんな重いもの、どうやって動かしたらいい?」

  「市役所の公園課に頼みましょうよ。きょうは日曜日だから
   あした あたしが電話するわ」




  おやおや、まずいことになってきたぞ、
  と、ぼくは思いました。

  市役所の人がやってきて、ラクダをもとにもどしたら、
  ラクダはまた、はじめから やりなおさなければなりません。

  あのラクダは、砂場を砂漠だと思っているのです。

  ぼくは、なんとかラクダを砂場まで行かせてやりたくなりました。




  つぎの日、ぼくは時間を見はからって、市役所の公園課に
  電話をかけました。

  ――ああ、一丁目の公園のラクダのことですね。
    けさ電話がありましたよ。

  公園課の人は、愛想よく言いました。


  ――さっそく午後、動かしに行きます。

  ――いえ、それが、それがですね、必要なくなったんです。


  と、ぼくは言いました。



  ――近所の人たちで、もとのところにもどしました。
    どうも お騒がせしました。

  ――あ、そうですか。それはどうもご苦労さまです。


  公園課の人は、ちっともぼくの言葉を疑わなかったので、
  ぼくは ほっとしました。

  これで少し 時間がかせげるでしょう。




  その夜、公園に行ってみると、ラクダはもう砂場まで
  ほんの一センチあるかないか、ぎりぎりのところまで来ていました。

  もとのところに もどされちゃかなわないと、ラクダも
  必死だったのかもしれません。





  ぼくは立ったまま、ラクダをながめていました。
  ラクダはうずくまって、まるで夢でも見ているように見えました。



  もうすぐ、東の空には太陽が昇ってくるのでしょう。
  空は少しずつ白みはじめ、月も白く消えかかっていました。


  「この分だと、あしたの夜、まちがいなく砂場に行きつけるな。
   がんばれよ」


  ぼくは、そう言ってラクダをはげましました。







  つぎの夜、ぼくはいつもより早く、ちょっとどきどきしながら、
  アパートを出ました。

  いまごろは、ラクダが砂場に着いているんじゃないかと思うと、
  ひとりでに足が速くなりました。






  けれど、公園に来たとたん、ぼくの足は魔法にでもかかったように
  ぴたっと止まってしまいました。






  公園が消えてなくなってしまっていたのです。







  公園のかわりに、ぼくの目の前に広がっていたのは
  どこまでも続く、広ろーい砂漠でした。



  そして、その砂漠の中に、一頭のラクダが うずくまって
  いたのです。

  そこは、ちょうどあの砂場があったあたりでした。





  ラクダは、しばらくの間、気持ちよさそうに月の光を浴びて
  いましたが、やがてすくっと立ち上がると、白く光る砂の上を
  一歩一歩、確かめるようにゆっくりと歩き出しました。






      フォト

 





  ぼくは、ただ だまって、ラクダが小さな黒い点のようになって
  砂漠のかなたに消えるまで、ぼんやりと見送っていました。




      ・・・・



  それから ふっとわれにかえると、砂漠は消えて、
  見なれた公園が ぼくの目の前にありました。


  魔法からとかれたように、ぼくは公園にかけ込みました。


  けれど、ラクダはもう どこにもいませんでした。
  ただ、少ししめった砂場の砂の上に、ラクダの頭を飾っていた
  花輪が落ちているばかりでした。



  「あいつは、砂漠へ帰ったんだ・・・」


  ぼくは そうつぶやきながら、しおれた花輪をひろいあげた
  のでした。

 
  
  
■案内
  ・最近の日記「目次」


 
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する