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2011年04月30日18:26

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Sign O' the Times/Prince

 才能をもてあまし気味だった絶頂期のプリンスが、ついには自身のバンド、ザ・レボリューションを解散させ、作曲から演奏まですべてを独りでこなしたという、真の意味でのソロ・ワーク『サイン・オブ・ザ・タイムズ』。(しかも2枚組)

 このような経緯を聞いて、僕が真っ先に思い出すのはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』である。言わば集団芸であるファンクのアンサンブルを、一人の脳内で作って完結させたらそこにはどんなグルーヴが生まれるのか。それがあの作品が追及したテーマのひとつだと僕は考えているが、本作でも似たような傾向が見てとれる。

 ソロだからこその妥協のなさ、ストイックさ。バンド演奏に必ず介在する、ある種ファジーな部分を徹底的に排除して突き詰めていったサウンド。ハウス調のタイトル・トラックである“サイン・オブ・ザ・タイムズ”は、本作のムードを的確に言い表している。
 その後の“ハウスクウェイク”や、続く“ドロシー・パーカーのバラッド”における、最小限の音数で構成された唯一無二のビート感覚は、もはやプリンスの独壇場。もっとも、そのような密室ファンク芸は『1999』のころから推し進められてはいたが、今回はより洗練されたアプローチを取っている。つまり、いままでの集大成的な内容になっている。

 それもプリンスにしては珍しく、ひとつひとつの楽曲がカッチリとしたポップ・ソングとして完成されてる印象を受ける。おそらく『パープル・レイン』以来、破綻したところが一切見られないはじめてのアルバムだろう。それまでの作品で見られた過度に実験的な要素を、無理なく伝統的なソング・ライティングに落とし込んだ成果。あまりにおもしろい曲ばかりで見過ごしがちだけど、“スターフィッシュ・アンド・コーヒー”とかポップなメロディを持った(誰が聴いてもわかる)普通に名曲だし。

 ただし、こういったマジな路線は最後まで続くわけもなく、2枚目あたりからは次第に肩の力の抜けた、良い意味で弛緩したナンバーが多くなってくる。
 ビートルズの“プリーズ・プリーズ・ミー”を思わせる軽快なリフが響くコマーシャルなロック“プレイス・オブ・ユア・マン”を端緒に、スカっぽく歯切れの良いブラスが聴きどころ“ビューティフル・ナイト”あたりで弛緩路線は最高潮に達する。この曲だけなぜかライブ録音だが、この流れだと違和感は感じない。とくに、プリンスらしい幸福なヴァイブがいっぱいつまった後半のインプロヴィゼーションを体験した後は、歓喜のあまりスタンディングオベーションしたくなるほど。

 さらに、本作でのプリンスは意外なほどにしっかりと「歌っている」ことにも気づかされる。声がキモ過ぎるせいで(笑)あまり言われないことだけど、この人の歌って普通にうますぎませんか?
 フィラデルフィア・ソウルを思わせる“アドア”でのファルセットの絶唱を聴けば、彼が類稀なボーカリストだということがわかるはず。

 そしてアルバム本編は、甘い香りを残したまま感動的なフィナーレで締め括られる。前半はタイトなビートで緊張を強いながら、後半ではオーガニックな歌と演奏で骨の髄まで弛緩させる。
 この構成。完璧な曲順と、恐るべき完成度……。本作をプリンスの最高作に推す人は多いと思うが、僕もまったく異論はない。
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