あけましておめでしうございます。
今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
早速乍ら、今年の”観た”の1本目、参ります。
作年12/9の日記に書いた1998年の映画『エリザベス』(→
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1018107531&owner_id=3341406)、それと同じスタッフ･キャストで2007年に製作された、その後のエリザベス1世。
イングランドの女王に就き、王位継承問題、新旧の宗教対立で、内にも外にも大きな問題を孕みながら、スペインの無敵艦隊を破り、世界の制海権を握って英国の黄金時代を築くに到る1585年からの数年間を描いています。
この映画での柱は2つ。
1つは、”処女王”を覚悟しつつも、多くの愛人は存在した、そのエリザベス1世、、前の映画ではロバート･ダドリー、今回は、ウォルター･ローリー。これも、史実の人物。
新大陸アメリカに英国植民地(ヴァージニア”処女の地”と名付けた)を初めて開拓しました。
女王の歩く先の水溜りに己のマントを敷いて女王を通した、というエピソードは頓に有名。
宮殿にはいない野性的なタイプとして描かれ、女王の興味を惹く事になります。
しかし、実際はどうだったか、エピソードにしても、植民地の名の付け方にしても、如何にも立身出世主義が見え見えだと私は思うのですが。
この幾重にもバランスを欠いた恋の展開が、1つ目の柱。
もう1つは、諸事件の進展からイングランドへ逃げてきたスコットランド女王、メアリー･スチュアート。
カトリック派に幾度も担がれた女王で、カトリックの盟主を自認するスペイン･ハプスブルグのフェリペ2世(エリザベス1世の前女王のメアリー1世を2番目の妻としていた)とも、影で連携しました。
エリザベス1世の父ヘンリー8世、その姉の子、スコットランドのジェームズ5世とメアリー･オブ･ギースの間に生まれたのがメアリー･スチュアート、という関係です。(メアリー･スチュアートの祖母とエリザベス1世の父が姉弟であるという言い方も可。)
この2人が英国の覇権を争い、それが、世界のカトリックとプロテスタントとの宗教戦争の一端にもなっている、という複雑な構造です。
この2つの柱に、スロックモートンの陰謀、バビントン事件、アルマダの海戦等が絡みつきます。
全て史実ですが、本来は離れた出来事を、少しずつ時間をいじり、無敵艦隊の壊滅に向け、監督シェカール･カプールが映画を意志的に構成し盛り上げていきます。
この展開には、巧妙な嘘が伴います。それは、悪い事ではないが、事実を知って観ると知らずに観るのとでは、面白味が大分違うでしょう。
例えば、ウォルター･ローリーとエリザベス1世の侍女エリザベス･スロックモートン(愛称ベス)の秘密裏の結婚と出産は、実はアルマダ海戦の3年後であって、この事件を、無敵艦隊壊滅をピークとする伏線にするには無理があります。
また、ローリーが、アルマダ海戦で、フランシス･ドレイクの下、火船(fire ship)作戦の実質的な指揮を執ったように描いているが、ローリーはこの海戦では何の働きもしてはいないのが事実です。
映画は、前作とこれとを比較すると、後の方がやや薄っぺらな感じがしてしまいます。
それは、海戦のスペクタクルを山に持って来てしまったからで、しかも、それにローリーの活躍があったという嘘が見え透いてしまうからです。
前作は、いろいろな人と人の虚々実々の関係の積み上げの向こうに、ヴァージン･クイーンの謎を振りかけ、そこにエリザベスという人間の真実の姿が垣間見えて、映画としてのインタレスティングな妙味があましたが、スペクタクルはたかがスペクタクル、それには叶いません。
とは言っても、これは私の感性。スペクタクル好きにはwonderful！かも。
ウォルター･ローリーという人物の魅力がもっと描けていればまた違ったかと思います。
我々後世の人間は、エリザベス1世が多くの愛人を持っていた事は史実として知ってしまっていて、彼もone of themでしかない。
エリザベスの恋心に、真実味や重さを与える為には、ローリーという人物について、並大抵の掘り下げでは不充分です。彼の後にも、エセックスという若い燕(ロバート･ダドリーの再婚相手の連れ子、33歳年下だった)が存在した事も世に周知の事実でありますからして。
そういう観点からすると、メアリー･スチュアートの斬首に到る展開の方が遥かに面白い。
同じ時代、同じような立場で、相反するものを背負った、2人の女性。
片方は黄金時代を築き70歳を全うし、片方は死刑によって44歳の生を終える。首を刎ねる者と、刎ねられる者に、道は何処で別れたのか。
エリザベスは彼女を死刑にするのをいつ迄も躊躇するが、女王のその心理は、非常にいいモチーフです。
メアリーの断首台上での衣装は、黒のマントを脱ぐと、首のきれいに出た真っ赤のドレス(写真参)で、この赤はカトリックの色。このコントラストの得も言われぬ美しさ。
首を台座に乗せ、首切り役人を見上げて何か言います。が、唇が動くだけで、観る者には声は聞こえません。
役人は何も答えず、斧を振り落とします。
しかし、この映画を観た多くのイギリス人は知っていた筈です。
斬首は1回2回とうまくいかず、3度目でやっと成功した事。(ギロチンと違い、斧による斬首はこの程度が常識でした。)
役人が髪を掴み、見物人に見せるべく持ち上げた首は、髪が鬘だった為、首が床に転げた事。メアリーの髪は、19年に続く幽閉の為、真っ白だった事。
最後に言った言葉は”In my end is my beginning”だった事。(訳せば、“我が終わりに我が始まりあり”。)
エリザベス1世の45年に亘る治世の後、ヴァージン･クイーンに勿論子はない訳で、王位を継いだのは、メアリー･スチュアートの子ジェームズ6世(イングランド王名ジェームズ1世)だった事。(メアリーの最後の言葉がまるで預言となった訳です。)
ここに到り、ようやくスコットランドとイングランドの王は統一され、現在のイギリスのペースが構築されたのです。
既述の通りスタッフ･キャストは同じなので、前作と違う部分だけピックアップしておくに留めます。
出演
ウォルター･ローリー/クライヴ･オーウェン
メアリー･スチュアート/サマンサ･モートン
ベス･スロックモートン/アビー･コーニッシュ
2007年英製作
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