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2008年01月07日00:03

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続きのお話2 第4章 前半

 第4章 砂漠の街


 約半年かけて大草原をはるかに越えてきたアラードたち三人の前に、ついに広大な砂漠が姿を顕した。
 おりしも真上から照りつける太陽の熱に焼かれて、からからに乾いた砂の海が赤茶けた姿でどこまでも広がっていた。北の王国ノールド領内にあったアルデガンの気候に慣れたアラードの想像を絶する苛烈な熱が頭上と足元から噛み付くような激しさで身を苛んでいた。灼熱地獄さながらだった。

 はぐれた羊を探す途中に黒い影の群れが砂漠に入るのを遠くに見たという者がいたが、魔物たちの群れに関する情報はそれきりとぎれた。砂漠から出てくるところや迂回するのを見たという者には出会えなかった。魔物の群れに大きく引き離されていたため相手とは4ヶ月以上の開きができていた。魔物の群れは4ヶ月も前にこの砂漠に入り、そのまま戻っていないのだった。

「大変なことになった」険しい顔でボルドフが唸った。

「なぜですか。ただまっすぐ行っただけなんでしょう?」
「ばかいえ! ここはとんでもない砂漠なんだ。こんなところに踏み込んだら命がいくつあっても足りない。あっという間に砂嵐に巻かれて自分の居場所がわからなくなって、あとは骨になるまで太陽に焼かれる。人間ならな」
「むろん踏み込んだのは魔物だ。そうやすやすと全滅などしないはず。どこかで砂漠から抜けるはずだ。極限まで飢えた状態で。そのまま人間の住むところに踏み込んだらどうなると思う!」

 ボルドフはあたりを見回した。

「砂漠に入るわけにはいかない。縁に沿って行くしかないがどこへ、どっちに行けばいいんだ!」

「だったら東へまわってくれないか!」
 切迫した声でグロスがいった。ボルドフが訝しげに訊ねた。
「いったいどうした? なぜ東なんだ?」

「ゼリアという名の街がこの砂漠の東にある。そっちへまわってほしいんだ。そこにもラーダの寺院がある」
「そこで情報を得たいとおっしゃるんですね」
 アラードの言葉にグロスはわずかにためらったようだったが、意を決したのか彼に向き直った。
「それだけじゃない。少し前に異変がおきた可能性があるんだ。しかもあそこはそなたが拾われた場所なのだ」

「……拾われた、ですって?」
 アラードはいわれた言葉の意味がしばし理解できなかった。
「私はアルデガンで生まれ育ったはずじゃ? 父も母も私が幼いうちに死んだのだと……」

「確かにアルデガンに住む者の多くはそうだ。だが、ノールドを中心に外部からやってくる者もいる。ボルドフのように自らの意思でやってくる者はむしろ少なく、幼いうちに捨てられ拾われる者のほうが多い。そなたや私のように……」
「師父も!」
 アラードの叫びにグロスはうなづいた。

「私は東の王国イーリアのはずれにあるラーダ寺院に引き取られた。それだけしかわかっていない。魔術師の修行が終わる直前に私は育ての親からそう教えられた。そして心を乱された。初陣はひどいものだった。奇跡的に死者は出なかったが腕や脚を失った者たちが出た。私の対応が一瞬遅れたばかりに」
 グロスの表情が歪んだ。

「アルデガンで戦う以上迷いは敗北と、死と同義だ。にもかかわらず私は迷いを克服するのに長くかかってしまった。迷ったところで何がわかるわけでもないのに。
 だからゴルツ閣下にお仕えするようになってから私は進言したのだ。身元のわからなかった者についてはここで生まれ育ったと押し通したほうがいいと。迷いは本人や仲間の生死にかかわる、絆に支えられ迷いなく使命を果たす方が本人のためであると。
 進言は容れられた。それ以後アルデガンでは幼くして外部から引き取られた者は両親が早くに死んだという内容で経歴も作られるようになった。実際に両親をなくす者も多かったから本人たちが気づくことはなかった……」

 言葉を切って、グロスはアラードを見つめた。
「そなたのその赤い髪と褐色の目はこの大砂漠の東部一帯に定住している農耕民族の徴だ。ゼリアの寺院に預けられた詳しい経緯は不明だが、おそらく街か近くの村で生まれ、捨てられたのではないかと私は思う」

「……わかりました、それは。では、その街に異変とおっしゃるのは?」
 アラードの言葉に、グロスは背の荷物を下ろすと中から一つの宝玉を取り出した。そして荷物で陽光をさえぎった。
「光の点がいくつか見えるだろう? 夜でなければはっきりしないが」
 アラードとボルドフが宝玉を覗くと確かに光の点が見えた。しかもそれらはどれもが違う色のようだった。

「アルデガンや4つの塔に宝玉があったように、寺院にも宝玉があるのだ。力は取るに足らないもので大したことはできないが、この玉よりはどれも大きくて呪文をかけると互いを感知して光るのだ」
「つまり、この光の点はそれぞれが寺院の宝玉を示しているというのか?」
「そうだ、ボルドフ。そなたが昔訪れた西部地域の寺院の宝玉はその紫色の光だ。逆にそれぞれの宝玉からもこの宝玉が見える。それも光の位置によってこの玉の、つまり我々のおおよその位置がわかるのだ」
 グロスは宝玉を荷物に戻した。

「私はアルデガンを出るときすべての寺院に早馬を送った。我らはアルデガンを出た魔物の群れを追う。我らの位置を常に把握し噂に惑わされぬよう対処するようにと。レドラス軍が魔物の群れに出会い壊走したのであれば逃げ戻った兵士たちの話から流言蜚語が各地に広まり無用の混乱をきたす恐れがある。だから我らの場所を把握するためこの宝玉を感知する呪文を使えと。
 むろん全ての早馬がたどり着けたわけではなかろう。初めから光が点らなかった寺院もいくつかあった」
「だが、光がいったん点ったのに消えたところが1ヶ所あった。それがこの大砂漠の東、ゼリアの街の寺院の宝玉だ。今から半月ほど前になる」
 炎天の下、その顔は色を失っていた。

「なにしろ迂回すれば馬でも半年かかる距離だ。私も結びつけて考えなかった。だが砂漠で迷い斜めに行けば、魔物たちの足なら3ヶ月で東に抜ける可能性もある……」

「馬が手に入らなければ俺たちは1年どころではすまんぞ」
 ボルドフが唸った。

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