スマホやパッドのチッサな画面で消費するのなんか、作品の本質を味わうには意味が無く。
認知度や大衆支持が熱く広くないので、ラージフォーマットは望めなくとも。日常から遮断された劇場で、人の視覚を覆うスクリーンと対峙して見ない事には本作の「真価」は損なわれてしまう。
美術館で展示された動きはしない1枚の絵画の前に立って吟味するものとは、全く別の自在なカメラの動きで切り取られる画角。舞台の設定やお話の展開に沿った画面構図に、割と普通な人物の所作が蔓延る中、怪異を追って平穏を破って突き進む自在な主役の身のこなしが産む縦横上下に奥手前と起動性に富んだ視点の置き所。
そして、本シリーズの「売り」である歌舞伎絵・錦絵に寄せた画調。主人公の薬売りのお顔には隈取が施されて、キャラクターの作りや衣装も画調を引き立てるアレンジがなされてはいるものの。舞台となる大奥、そして歌舞伎絵調ではあるけれど、実写にある江戸時代劇とは次元を外れた洋装や洋式の小道具、建築様式、西洋絵画の表現が折衷されて独自の世界観が形成されていて。
場面を切り取った画像で見てしまうと、色調弱めな平坦な手描き画としか見えませんが。デジタル技術で、敢えて歌舞伎絵の様に「透け感」を出す様に8枚のキャラと背景用テクスチャを重ね、人物の輪郭も歌舞伎絵を踏襲して青で淡くかすれ気味に残したうえに、和紙に描いた雰囲気を醸す「皺」を入れるという手間の掛け具合。
実写の時代劇では物理的制約と歴史考察の視点から、大奥の舞台はお城の一角の狭小な室内になりがちですが。アニメーションでは、ノーリミット、空間制限無しなので間取りは自由自在。小部屋から主要キャストが一堂に会する大広間まで、創意の赴くまま広がる。そして、長きに渡る大奥の歴史と共に巣食って来た「怪異」が、スクエアに区切られた襖や天井を、大蛇が長い体を不規則にくねらせて進む様に、ペイズリー柄の丸部分が丁度目の様に辺りを伺いながら帯状のそれが縦横上下の設えられた建物の壁紙や天井の模様を割くように動いて、室内の者達が居る空間を自在に取り囲んで行くところ。
それを退けるべく、薬売りによって放たれた、何枚もの御札をもって「壁」を形成し、無軌道な「怪異」を喰い止め空間の侵食を喰い止める攻防の一部始終は、その色彩と画面移動と構図の切り取りの変化によるスピード感と視覚の変化で見つめるこちらの感覚が奪われて、ちよっとした陶酔、トリップ感。これは、「絵画鑑賞」では得られない3次元の醍醐味です。
「怪異」を斬り祓うには、呼ばれなくとも何処から駆けつける薬売りが背負子に仕舞った「退魔の剣」を抜かねば成し得ず。その為には、「形・真・理」、襲ってくる怪異の特定、何故生ける者達を陥れるようになったかの背景、目前の危機として現れ出たホントの理由が明らかにせねば抜けない設定は、目くるめく展開の中、テンポ良く見る側にも物語の「序破急」を植え付ける親心の現れ。最終章と云う事で、キャラクター間の関係性にも特に言及すされる事無く、もう阿吽の呼吸。そもそも、話を動かす薬売りには、現れた「怪異」を鎮める事にしか興味は無いものだから、見ているこちらも弛み知らずのまま没入出来ます。
素晴らしい視覚体験が明けた後、史実にインスパイアされた本作の大奥を舞台にして、何百年も掛けて体制維持の為に、でっち上げた事実をホンモノとして集う人たちの信心で守り付いて行ったお陰で保たれて来て。実の子の傍で育て上げその子の幸せをただ願いたいという個人の想いは無念に帰するという、何処にでも何時の時代にも絶えない現実と悲劇の比喩として本作の設定に籠められている事が、シミジミ思われるのですが。まずは、三つの条件が揃って、退魔の剣を抜くや、シャレ者然とした薬売りの姿が、筋骨逞しいナイスルッキングな「神儀」の姿と変わって、ウロコに模した三角形でシャープに構成された蛇神を色彩空間で斬り祓う様式美に浸るべし。
私の場合、この劇場版が「モノノ怪」の世界観との出会いで。製作にあたって、主役の声が神谷浩史さんに代わったのは聴いてはおったのですが。本作が、劇場版三部作の「締め」という事で、勿体付けて簡単には終わらないところで。実は、退魔の剣の持ち主は1人に留まらなかったという追加設定のもと、フィナーレを飾るに相応しい共演場面が訪れて。
「国宝」で云うところの、吉沢亮さんと横浜流星さんが、舞台で「二人藤娘」を舞う場面に匹敵する見せ場があって。後で、交代裏の経緯と本作の舞台が大奥である事を考えると複雑ではありますが。劇場版への道筋を付けた功労だけを思えば、その場面をこしらえた意義として理解は出来るし。何より、見ている間は、「おおっ」って小声で漏らしたものでした。
ともかく、3作続けて良い映像体感が出来ました。本作見て、前作を遡るのはありなので、試しに是非。
拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター��にて
↓本文最後の段で触れた「くだり」が、動画終わり際にチラッと出てきます。
https://www.youtube.com/watch?v=XL8rjn_nLRU&t=1s
↓過去2作と本作の「怪異」に焦点を当てたダイジェスト予告動画
https://www.youtube.com/watch?v=V3tcOTM_hEA&t=3s
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