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2025年09月28日23:05

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「ひゃくえむ。」を見て。〜描き込まれた「短距離ランナーの孤独、そして美学」〜

スポーツ競技を描くとなると、選手のそこに向けての努力の過程からつかみ取る成果がストーリーを占めて、大抵、映像の画作りはその展開に添える為となるけれど。陸上競技の100メートル走をモチーフとする本作は、「決戦」の舞台に上がる才能を持つ極めて限られたプレイヤーの経験やその過程で変化するコンディションと闘争意識の間で揺れるメンタルに焦点が当てられて。誰もが、アガる様な華々しい競技表現がない代わりに、トラックを10秒台で駆け抜ける選手の内面が、ビジュアルで客席側と共感、共有される描かれ方がされたこれまでに類のない映像作品となっている。

原作は、別の作品の映像化が評判を呼んだ魚豊(うおと)さんの連載デビュー漫画で、本作は今回の映画化のみで成立しているので、敷居が低く誰もが入り込めます。メディアの競技中継では、絶対うかがい知れない選手の内面に入り込むかの見せ方のうえに、主人公を始めとして、彼らを取り巻く100m走者たちの己の実力を熟知し競技を連戦し続けている故に醒めて達観した発言やポリシーの数々は、どこかハードボイルド風でもあり、中には競技自体を超えて見る側の腑に落ちて来るものも幾つかあって。なので、普段、実写ばかりでアニメーションを見ないムキにも、お勧めできる一篇です。

走る才能に恵まれて生まれたトガシは、それ故にクラスから一目置かれていた小学生の頃に、転校して来た小宮と出会う。どうにもならない現実から逃げるため、学校の外では、闇雲にそこらじゅうを駆け回っていた小宮に、トガシは100m走の「走り方」を放課後伝授して行くのだった。走る事に対して、その恩恵を享受しながらも「引いた感覚」で居たトガシに対して、小宮は、それまで走る能力をただ発散させていたのだが、正しく振り向ける事が自身の居場所が出来て、能力を「振り向ける方向」を知った。こうして好敵手でもあり、互いに切磋し合う盟友でもある二人の関係が始まる。

トガシと小宮は、その後の進む道を分かつのだが。それぞれの道のりを経て、高校のインターハイで小学生以来の対決を迎え、彼ら以外の選手達とのし烈な実力者同士の争いは、日本陸上選手権にまで引き続いて行く。小学校期は、女性声優さん達がトガシと小宮の声を担当おりますが。高校生以降は、トガシを松坂桃李さん、小宮を染谷将太さんが声を充て、短距離ランナーの内面を濃密な映像表現で見せる本作の見応えに尽力されています。

高校生以降は、勝ち続けることのみが選手にとっての「存在証明」となるので、殆ど、喜怒哀楽を現す事が少なく。小宮に至っては、ハイレベルな戦いで相手を打ち負かしても、淡々としていて。なので、染谷将太さんの場合は、自身のお姿込みで表現できないのが、もしかしたら、もどかしかったかも。対して、露出割合が多いトガシの松坂桃李さんは、選手としての「起伏」が激しい分、メンタルの勾配も急角度が付けられる展開となっていて。選手としての栄光も自信も打ち砕かれて「どん底」におちいった際、キャラクターの表現も、全身の水分を涙で絞りだしているかの見た目なのだけれど、そこへの「声」の載せ方も本人が実際に演じているかの気持ちの入れ込み様でした。

社会人時代のライバルでは、今や実体でも引っ張り凧の津田健次郎さんが充てた、出番は少なかったけれど海棠のポリシーに共感できました。体力の衰えを、経験で蓄えた知恵と機転で要所を乗り切って現役を続けていて。傍目から見れば悪あがきなのだろうけれど、「現実逃避」と向き合う姿勢を称するのだけれど。置かれた現状を知りつつも、諦めきれない心境を吐露しているようで、客席の中高年には刺さります。

原作を知らない私の鑑賞動機は、本作が、岩井澤健治監督の最新作だからでした。監督と云えば、一度、実写で撮った映像に画を上書きするロトスコープ手法。エンドロールを見ると、幾つかのシュチュエーションについての撮影スタッフと並んで本作の場合、本当の陸上選手が、学生や社会人から動員されているのが判ります。(小学生時代は、さすがに「実写」を撮ってない様子ですけど)特に、インターハイでトガシと小宮が相対する、雨模様の中の決勝戦の場面には息を呑みました。

トラックの外で待機していたトガシの表情から入って、後を歩く小宮以下他の選手をなめて、スタート位置に着くまでのルーティーンをこなす選手達や見守る競技スタッフをワンシーンで見せているのですが。実体の選手に上書きしたアニメーションの画で各々の「個体」が強調されて、総てを決するレースの10秒間を迎える時間が内面を含めて生々しく映るのです。他、随所に、ゼロから書き上げるアニメーションと違う、それこそ、手持ちのカメラで切り取った「視覚」が描くテーマを盛り立てていて。お金と手間をかけた分、得意の手腕の更なる進化によって、トガシや小宮、そして他のランナー達へのシンクロ度合いが高まります。

終わりは、見る者に委ねられるカタチですが。強者たちの雌雄がどう決するよりも、優れた能力を持つ者たちが、純粋にその時の「勝負」だけに燃焼出来た事に、こちらも熱くなりつつも、彼らに祝福を送るのでした。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャインららぽーと沼津 シネマ�イ砲�

↓ 配給会社の後宣伝で、ちよっとだけ本文で触れた場面がチラ見せとなっています。
よろしければ、どうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=2rMm7UjOa0g

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