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2024年11月23日15:01

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「十一人の賊軍」を見て。〜クソ野郎(賊軍)と呼ぶなら、爆破でバラすか叩き斬るのみ〜

ことわざ「勝てば官軍、負ければ賊軍」を正に指す、集団抗争時代劇。

それは、道理に叶ってなくとも勝った者が正義で、それに敵対して敗れた者が悪と見做されるという事なのだが。本編で描かれるのは1868年江戸幕府に反旗を翻す薩長連合の官軍が朝廷を抱き込み引き起こした「戊辰戦争」にあって、幕府側の奥羽越列藩同盟の隣藩を官軍が陥落させる中、新発田藩が藩の荒廃を避けるべく幕府の決起の申し出をやり過ごして、官軍に乗り換えたのだが。その史実に発想を得て、政府軍を藩内から出立させるまでの間、囮として藩境の切り立った岩場のちっぽけな砦に立てこもり、官軍の斥候隊の足止めを命じられた十人の死刑囚と指揮を任された剣術道場主の行先を無くした者たちの決死の抵抗が描かれる。

製作会社東映の「お家芸」であった任侠・実録物を執筆で支えた脚本家笠原和夫氏が遺したプロットを託されたのが、「孤狼の血」シリーズで、このコンプライアンスで凝り固まった現代に、老舗が売り物にしていたアウトローな輩の型にハマらぬ素行の悪さ、不良性、信念を貫く者同士のぶつかり合いをヒットに繋げた実績をあげた白石和彌監督である。今年前半公開の「碁盤斬り」に続いての時代劇だけど、前作は、落語の世界観に寄り添う分かしこまった感もありました。続く本作では、東映の社歴を紡ぐ間不出とされた企画を託され、お金も時間も任されて、使える映像表現を駆使しつつ描き慣れた自暴自棄で破滅的な生き様を見せるのに振り切られています。

題材的にも、「泥臭さ」だけで押し通されそうですが。今この時代の製作らしく、ドローン等撮影機器を活用した高度からの俯瞰撮影や、大筒から放たれた砲弾をデジタルで描き込んだカットに加え、良い具合で音響が利いている。時代劇を量産して来た老舗らしく、コスチュームやセット作りの基礎も相まったうえに、自主製作とは違って、顔の知れた実力派俳優の演技も見られるし。ただ、所々、派手に起こる爆破シーンの効果音が勝って、セリフに被さり聴き取り難かったりもしたけれど。本作のソフィスティケートに貢献していたのは、デジタル技術と並んで音楽の面も大きい。イタリアへ出向いて依頼した「ミラノ楽団」が奏でる劇伴にあっては、特に弦楽器と管楽器のハーモニーが、ベタ付きそうな展開をヒロイックな領域へと導いているかのようで、単に画や音だけでは味わえない多元的芸術表現が体感できるとは予想外。

江戸の幕末から時代が流れて社会の仕組みも成熟し相互理解が深まっていておかしくないところ、富や力を持つ者とそうでない者に色分けされて。相手を受け入れるどころか、意に介さぬ立場の者は排除される風潮が強くなっている。帝を奉り武力をもって、対立者を「賊軍」と見做し問答無用に同胞を傷つけ命を奪う「官軍」の対立構造から、未だ変わる事なく。勢力の対立から、藩民を守る大義があったとしても、幾ら現代より更に人権意識が薄かったとはいえ、命を軽んじられているうえに、それまで拠り所として抱いていた信条や誇りまで、「賊軍」つまりは敗者、クソ野郎と見做されては、何個もの「はじけ球」に火を付けて爆破もしてやりたくなるだろうし、斬られると判っていても刀を手に取り仇の軍勢に歯向かっていかねばやるせない。

山田孝之さんや岡山天音さん(「Cloud」と舞台となる時代は違っても、変わらぬ卑屈さにはシンパシー沸く)ら、捨て駒にされる十人の死刑囚は、その日を生き抜く事にただ懸命なのだけど。奥羽の同盟藩への忠誠を掲げながら、死刑囚たちの命を預かる藩の道場主・鷲尾兵士郎の仲野太賀さんは、年端の行かぬ主君を担ぐ藩の実力者溝口演じる阿部サダヲの藩を守る「正義」を掲げられてところで、これまでの処し方を否定するやり口には怒り心頭であろう。

感想を書くにあたってネットで漁ってみたけれど、鷲尾が右に剣を持ち、左手の人差し指を横に指しつつ両腕広げ胸襟で相手を受け止める、一瞬無防備な構えの型が何なのか判らなかったのが惜しかったが。「わしは、賊ら。十一人目の。」と、決めゼリフと共に握力の利かない右腕に刀を縛り付けて、二刀流の構えで取り囲む敵に斬りかかってゆく姿には、鳥肌立ちました。折角、良い見せ場があるのに、番宣で「現場の掛け持ちで剣術の練習が追い付かなかったけど、何とか間に合わせた」趣旨の発言していた。番組の「撮れ高」を意識したのだろうけど、夢が壊れるからぶっちゃけなくてもいいのに。

お察しの通り、「破滅」の物語ではございますが。官軍、政府軍を綱渡りして、なんとか新発田藩を守ろうとする阿部サダヲさんの溝口は、悩める中間職にも一見写りそうなのだけど。自身の「正義」の達成の為、鬼畜生な事も自ら手を壮大に汚されて。よくPG12で、すんだなって印象だったのはさておき。その辺りを白石監督が、「神の目」を利かせてくれて。許されぬ行いには、必ず「報い」があるのを示しているところに、「救い」がある。

「十三人の刺客」のキャストには、松方弘樹さんや伊原剛志さんといった、時代劇の殺陣を知る人が「剣豪」として控えられていて。次の世代への継承として、(山田孝之さんは、「十三人」に出られていて。でも本作では武士ではなかったから、引き継ぎを確認できなかったけどさ) 本作にもそういうキャスティングが無いのかと見る前は過っていたのだが。浪人の死刑囚爺っつぁん役の本山力さんは、東映の剣会にも名前を連ねる殺陣のベテランで、官軍に腰砕けで追い詰められた山田孝之さんに代わって、彼の手から譲り受けた折れた槍の二刀流で「名乗り」と共に向かってゆく姿が、ストイックで痺れました。だったらもっと、見せ場が欲しいくらいに溜めて溜めての登場としたのも、爪痕を残す見せ方で流石です。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャイン沼津 シネマ1にて

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