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2024年03月21日00:44

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「山梔」(野溝七生子)

「山梔(くちなし)」
野溝七生子:著 ちくま文庫
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480439222/

1920年代に書かれた小説ということで興味を持ちました。

母のために山梔の花を取ろうと一生懸命手を伸ばす子供の描写から始まります。
その子供を抱き上げて花を取らせてくれたお姉さんと知り合いになり、互いに行き来する日々が始まります。
父親はとても厳格で、帰るのが少しでも遅くなると厳しく𠮟り、折檻をし、ひどい時は土蔵の閉じ込められてしまう。当時の父親と言うものはそういうものだったのでしょう。とりなしをする母親に対しても、甘やかすなと怒ります。

やがて一家は「夏の住居(すまい)」と呼んでいた、高台から海が見晴らせる洋館に引っ越しをします。
そこで阿字子は両親と、兄と姉と妹と暮らし、やがて女学校に上がるようになります。

女学校での阿字子はとにかく本が読みたい、本が読みたい、とたくさんの本を読みます。特に希臘神話、アーサー王伝説などの中世騎士物語に夢中になります。
目の前の景色にギリシア神話の場面を思い浮かべ、いつも空想に心を飛ばす。妹に王子様とお姫様のお話を語って聞かせる。
女学校ではあまり友達もできず、ひたすら空想の世界に心を馳せ、現実には存在しないその世界を思ってやりきれない思いが湧きあがって来る。
…なんかもう、これは私の高校時代を思い出して仕方がありませんでした。空想の世界に生きて、現実とのギャップがやりきれなくて、生きるのがつらくて…そんな思いがシンクロして蘇ってきました。しかも阿字子が自分のことを「いけない子」だといってよく自己嫌悪に陥っている所も。やはり現実とうまく折り合えないのはよろしくないという自覚はあるわけで。さらに、周りの人たちの言動が逐一気になってしまう。高校の時の私がこれを読んだらどう感じたでしょうか。どうしようもなく共感して、この本にずぶずぶに溺れていっって、ますますつらくなったかも…。それぐらい共感ポイントが高かったです。

登場人物がかわす言葉も現代のものと少し違っていて、それが当時の雰囲気をよく伝えています。

そうして阿字子が女学校を卒業する日が来ました。
そのころ、姉に縁談があってお嫁に行くことになりました。

当時のことですから、阿字子は大学へ行くこともなく、就職するわけでもなく、家でずっと過ごすことになります。女中のいる家ですが、家事を手伝って見たり。相変わらず本を読んで希臘の世界に空想を馳せながら海辺で過ごしたりして「大人になんぞなりたくない」とつぶやきます。

そのうち姉が阿字子に縁談を持ってきます。以前見知っていた人でもあり、話しやすいいい人でしたが、阿字子は結婚などしたくありません。
周りからは結婚しなくてどうやって生きていくの、と「正しい」お説教をされたりもしますが、阿字子にはそのお説教は耐えられません。しかしそれによってますます自己嫌悪の沼に堕ちていく…。

これは、作者の少女時代が反映されているようです。
野溝七生子は1897年生まれ。
大分高等女学校、同志社大学英文科予科、東洋大学文化学科に進む。在学中の1924年に福岡日日新聞の懸賞小説に応募して首位入選。これが「山梔」です。新聞に連載されたのちに単行本化されました。
1920年代にリアルタイムで書かれた、当時の気分が伝わってくる内容です。
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