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2023年08月12日00:30

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知られざる1910年代の宝塚〜学芸員の調査方法おしえます〜(3)

それから、少女歌劇の成り立ちに関する従来の定説への疑問が提示されました。
従来、娯楽施設「パラダイス」には室内プールがありました。しかし当時の技術では温水プールを維持することができず失敗。そのためプールを改造して少女歌劇の上演をすることにした。
…というのが定説。

しかし、このパラダイスという施設に関する史料を調べると、どうもちょっと違うような。
プールはもともと夏場しか使えなかったらしく、オフシーズンには別の用途に使っていました。当時のプールの写真を見ますと、舞台に使うようなデザイン性のあるプロセニアムアーチがしつらえてあり、二階のバルコニーつまり観覧場所のようなものもあります。客席と舞台というしつらえを最初から備えていたようなのです。
調べてみますと、実際にパラダイスでいろいろな芸能が行われていたようです。パラダイスは総合娯楽施設として建てられたので、プールだけの建物じゃなかったんですね。なので、もともとプール以外の利用が行われていたのです。冬にプールは使えない、ことはわかっていたのでは。

史料を探すと演目の広告がいくつか見つかりました。かなり色々なものをやっていたようです。
その中で好評を博したらしく複数出て来る「幻」という演し物。東京の美人女優が出演とか謳っています。「幻」って何?と思ったら、解説には「カバレ・ジー・ニアン」(メモ不完全でうろ覚えなので合ってるかどうかわかりません)と書いてあります。ますます「これは何???」
あれこれ調べてもなかなかわからなかったのですが、ついにたどり着きました!フランス語のcabaret du néant(キャバレー・デュ・ネアン)だったのです。
これは19世紀末にフランスで行われた視覚のトリックを使った出し物です。大きな板ガラスと灯りを使って、観客からは見えないところにいる人を映してみせて、幽霊が現れたり消えたりするように見えるトリックです。なので「幻」。当時の絵まで探し当てて来るなんてすごい!!!!
広告では「汐くみ」の場面とみられる絵など日本物の絵が添えられていますので、日本物にアレンジしていたようです。

(そこでcabaret du néantをキーワードに私も探してみました。ちなみにnéantとは、無、虚無を意味するフランス語です。
そうしたら、19世紀末のパリのモンマルトルにLa Cabaret du Néantという、ホラーをテーマにしたカフェがあったのです。まず入り口から入ると僧侶に導かれて部屋に入ります。ウエイターは葬儀屋。ガイコツの姿のパフォーマー、骨で作ったシャンデリア、棺の形のテーブルなど。その中でトリックを使った見世物が行われていたのです。そのトリックは「ペッパーズ・ゴースト」とも呼ばれるものでした。「ペッパーズ・ゴースト」で検索したら日本語で調べが付きました。ガラスと灯りを使ったトリックの解説もありました)。

確かに温水プールは機能しなかったとか、男女が一緒に泳ぐのは時代を先取りしすぎたとか、プールは失敗したようです。しかしプールがダメだったから少女歌劇を…ではなく、もともとその前から出し物、見世物が行われていたのです。多分、少女歌劇の上演が始まってからは少女歌劇の人気も高まってプールとして使われることがなくなって、それで「プール失敗説」が流布したのかもしれません。

(つづく)

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