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2023年04月11日00:36

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ブロードウェイ・ミュージカル「太平洋序曲」

梅田芸術劇場で見ました。

ブロードウェイミュージカル「太平洋序曲」は1976年初演です。日本で上演されたのは2000年、宮本亜門の演出でした。

アメリカ人が日本の黒船来航を描くという珍品です。

まず舞台には何かの展覧会のように日本の着物や刀などガラスケースに展示されたものが点々と置いてあります。そこへ現代の普通の男女がバラバラと入ってきて、あいさつしたり談笑したり、スマホで写真を撮ったり…。
最後に「狂言回し」役の人が登場します。

狂言回しは私が見たのは山本耕史(ダブルキャストでもう一人は松下優也)。
歌い始めると他の人は退場していきます。そして歌は日本の説明へ。
ここは島国、海に浮かぶ王国…。
そうして紺色の作務衣のような衣装を着た人たちが現れ、歌に合わせた動きをします。
この「プロローグ」がちょっと長いな…と感じたのは、「日本人は米を食べる」「月を見る」「茶をたてる」「おじぎをする」と繰り返すのがくどく感じられたからでしょう。他の国とかかわりを持たず進歩もなくひたすら静かに平和に暮らしてきた…。もともとブロードウェイでアメリカ人に対する説明だと思えば仕方がありません。

さて、物語の中心になるのは二人の人物。
一人はジョン万次郎(立石俊樹:ダブルキャストでもう一人はウエンツ瑛士)。
アメリカへ渡ったこと、さらに帰ってきて日本に入ろうとしたこと、いずれも鎖国を犯す行為として詮議を受けています。
死罪を言い渡されようとしたところ、万次郎はアメリカの軍艦が近づいてくる、それを伝えようとして日本に帰ってきたのだ、対策を立てるべきだ…と主張します。

実際その後すぐに黒船がやってきて沿岸は大騒ぎ。

幕府はさてどうしたものかと考えた末、香山弥左衛門(海宝直人ダブルキャストでもう一人は廣瀬友祐)に交渉を命じます。これがもう一人の人物。調べたら実在の人物でした。知らなかったー。

弥左衛門は最初は交渉しようとしても相手にされず。アメリカ人と交渉する方法がわかる万次郎の助けを借りることになります。

話を聞いてみると、ペリーは大統領からの親書を渡したいから受け取れととのこと。そしてお膳立てをして、はい、受け取りました、ではさようなら。
おお、めでたく帰って行った…。
弥左衛門は昇進。
万次郎は死罪を免れ、さらに武士に取り立てられました。

と、喜んだのもつかの間、黒船は再びやってきます。
今度は脅しまがいに条約を結ばされました。

そうしたら、今度はそれを知った西洋列強が次々とやってきます。イギリス、オランダ、ロシア、フランス。

外国人の居留地ができて外国のものも入ってきます。
弥左衛門は帽子をかぶり、洋装してモノクルをかけ西洋化していきます。
万次郎は逆に袴姿で剣を学び武士らしくなっていきます。

攘夷と外国人への反感、そして外国人を受け入れる幕府への反感。
二人の運命はそういった情勢に翻弄されていき、迎えた結末は…。

香山弥左衛門という人はあまり知られていないのでは。また、将軍も天皇も出てきて、将軍と天皇の関係性も説明されていますが、固有名詞はなくどの将軍、どの天皇と特定できません。
つまりジョン万次郎以外有名な人は出てこない。
幕末の有名な事件、有名な人々、全然出てきません。

これが日本人ならばあれも入れよう、これも入れよう、史実はこうで、ああで…とがんじがらめになっていたかもしれません。

アメリカ人が描くからこそ、史実としてはいくらか怪しい所はあるものの、黒船来航による日本の反応や影響がわかりやすく描かれたとも言えます。
間違いとまではいわないものの、なんとな〜くズレてるなーと思うようなところもありますが、それこそが「珍品」たる所以です。

さて、音楽と詞はスティーブン・ソンドハイム。
歌い上げるようなドラマチックなメロディーは書きません。抑揚の少ない複雑な音の重なりでナンバーがつづられて行きます。結構繰り返しが多く、気持ちよく歌えるものではなくても歌詞の一部が頭を回る。

脚本はジョン・ワイドマン。

今回の演出はマシュー・ホワイト。

将軍と芸者屋の女将の二役を演じたのが朝海ひかる。なんで将軍?とは思いましたが、キンキラの衣装で、最初は偉そうにしていながら次々とやって来る西洋列強の要求に翻弄される場面はダンスも入ってかなりの活躍です。

しかし私の目当てだったのは山本耕史。
1人だけ冒頭の現代の衣装のまま語り役を務めました。しかしその歌声やセリフはあくまでも淡々としていて、ドラマチックにならないこの作品の雰囲気がよく出ていました。多分、歌っているナンバーは難しいんでしょうけれど、それもさりげなく聞こえたので、実はやっていることはハイレベルなのかも。
ラストにドカン!と変身して出てきますが、登場のインパクトはあってもセリフは淡々としていた。

宮本亜門の時は白を基調としたモノトーンのシンプルな舞台美術でした。(この時期の宮本亜門はモノトーンが好きだったのか、「キャンディード」も白かった)。劇場も国立劇場小劇場で小ぢんまりしたもの。

今回は大きな劇場でセットも大がかりです。それだけで随分イメージが変わりました。ソンドハイムの小難しい変わった作品だと思っていましたが、エンタテイメントになっている!
日本的なのに古臭くない。「モダン・ジャパン」といいましょうか。

ラストのナンバー「ネクスト」(知ってないと「ネクスト」って聞こえない。英語の原曲に合わせているので「ネッネッ」としか聞こえなくて何を言っているかわからない)。
これは扱いが難しい歌です。

そもそも初演は1976年。日本が「エコノミックアニマル」などと言われて経済力を伸ばしていて、でもまだ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」までは行ってない時代。これから日本を脅威に思うアメリカ側の気分が入っていた模様。
確か、突然明治維新が始まって、工場を作れ、鉄道を作れ、西洋に追いつけー!と必死に走ってきたら、戦争で原爆を落とされて挫折して、また立ち上がって発展してきたー、みたいな表現だったと思います。
なので今では時代がすっかりズレてしまっています。

2000年の時はバブルが崩壊して低迷していたころ。なので手放しで「発展してきたー」というわけにもいかず、全く変えてしまうわけにもいかず、中途半端な表現になっていたような気がします。

今回は特に特定の意味を持たさず、ただ前進しろー、と抽象的な意味で終わらせたので、かえって何も考えずに済みました。

なので、私は宮本亜門の時よりもずっと満足感を得られました。

ゲネプロ映像
https://www.youtube.com/watch?v=fef3FgelHoU

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